【伝説の開始ー9】


「どうしてだ、
どうしてここから
逃げなかったんだ??

今なら手錠もないし、
お前ならこの山を楽に
下りられる。

絶好のチャンス
だったのに
何故なんだ?」



「そうだな……
チャンスを
棒に振ったんだよな。

ホントなんでだろうな…」



何やら
白井は呟いている。



「理由はあるだろ?
一体何故なんだ!!」



「う~ん…
強いて言えば、
あんたは他の刑事とは
違うとこだな。

あんたを最後まで
見届けたくなったんでな

もう、
逃げも隠れもしないぜ」



この答えに、
田崎は驚かされた。



「……じゃあ
何故雪かきしろだなんて
嘘をついたんだね?」



「隙を見て
逃げるフリをしただけだ

本当なら
とっくの前に、
ここから逃げ出せたのに
逃げなかったんだ。

確実に逃げられたのに
わざと逃げなかった、
この意味分かるか?」



「………?」



「分かんないって顔
しているな。

つまり、もうあんたは
俺を見張らなくても
逃げないってことだよ」



「なんで
そんなことを…?」



「あんたこの山に来て、
ずっと
歩きっぱなしだろ?

さっきも
俺を見張る為
寝ていなかった
みたいだし、
もういい加減
体力の限界だろ。

だから、
俺を見張らなくても
逃げないから、
ゆっくり寝た方がいい」



「……!!」



白井の口から、
こんなことを言うとは
思いもしなかった。



そこまで
田崎のことを
考えた上での
行動だったのだ。



白井は話を続ける。



「普通に
逃げないと言っても
信用できないだろ?

だから信用させる為
わざわざこんなこと
したんだぜ」



確かに、
ここから飛び降りて
逃げるのは
田崎でさえ容易いし、

その気になれば
一階に荻原の猟銃が
あるのだから、
それで田崎を撃って
逃げることも
できたかもしれない。



だが、白井は
それをしなかったのだ