一度も行ってないお店。

何の思い出もない真っ白な場所で佐和さんと過ごしたい。


そんな気持ちもあった。

ほんの少ししか過ごさなかった私でも紫衣が良君と共に作った思い出はアルバムを見たり話を聞いたりして把握してるんだ。



「行こう、佐和さん。」

私は佐和さんの手を引いて車に向かって足を進めた。


「いいのか?」


小さな声で私に聞いてくる佐和さん。


「いいの。」


私も小声で佐和さんに応えて、車に乗り込んだ。


車を発進させた佐和さんは、


「本当にいいのか?」


再度私に尋ねてくれた。

だから私は自分の気持ちを佐和さんに全部話したんだ。


思い出の何もない場所で佐和さんと過ごしたいと言うことも伝えた。


そして、芽衣ちゃんにも佐和さんに伝えた気持ちをそのままメールにして送信した。


メールの最後には追伸で佐和さんが買ってくれたバームクーヘンがあるから食後のデザートは食べずに家に食べに来てねと書いたんだ。


きっと芽衣ちゃんならわかってくれる。


「バームクーヘンは4人で食べようねって書きました。
だからデザートはお店では食べずに帰りましょうね。」


私の言葉を聞いて頭を撫でてくれる佐和さん。


「紫衣もなかなかの策士なんだな。」


そう言ってくすくすと笑っていた。



目的の居酒屋さんには家から歩いて行ける場所にあるので、家の駐車場に車を止めて歩いて向かった。


「今日は俺も飲めるな。」


いつもアルコールは飲まない佐和さんに少しは恩返しが出来たかな?


「はい。たくさんは飲んじゃダメですよ。
だけど、いつも佐和さん飲まないから今日は心置きなく飲んで下さい。」

喜んでいる佐和さんに私もすごく満足だった。


それに想像以上にお洒落な内装のお店にもとっても嬉しかった。