「君が紫衣の側にいてくれる事を私も嬉しく思うよ。
だが一つだけ言っておく!
私の大事な娘を泣かせたときは容赦しない。」


真顔で話すお父さんは迫力満点で、


「肝に銘じておきます。」


神妙な表情で応える佐和さんを見て、お父さんは目を細めて優しい表情を浮かべた。


それからは私達は今後の旅行の予定や今まで連絡を取らなかった溝を埋めるようにたくさん話をした。


「ところで今日はこの後どこか泊まるところはとってあるのか?」


面会時間が終わる頃お父さんに尋ねられた佐和さん。


芽衣ちゃんのメールには今日の宿泊先は書いてなかった。


「いいえ、今日は…。」

「だったら家を使いなさい。」


「そうね。それがいいわ。芽衣ちゃん達も一緒に家に泊まりなさい」




そのまま私達も一緒に病室に戻り、家の鍵を持っていることを確認させられた私は佐和さんと自分の家に泊まることになった。


だけど芽衣ちゃんと島田さんは芽衣ちゃんのお母さんに自分の家に泊まるように言われていた。


入院しているため、家の空気の入れ替えなど、芽衣ちゃんはお母さんにたくさん用事を言いつけられてうんざりした表情を浮かべていたんだ。


「お母さんの狙いも同じなんでしょ?」


こっそりとお母さんに尋ねると、


「当然でしょ!」


胸を張って応えるお母さん。


自分達だって明後日には家に帰れるのに、私達に用事を言いつけて佐和さんや島田さんの心の負担を減らそうとしてくれているんだね。


「ありがとう、お父さん、お母さん。」


そして、面会時間が終わりになり私達は病院を後にした。


外に出て車に向かう途中お父さん達の病室がある5階の廊下を見上げると窓から手を振る両親の姿が見えた。


私は手を大きく振って、

「いってきます。」と心の中で呟いてから二人に背を向けて足を進めた。