私の言葉にくすくすと笑いを漏らす佐和さん。


彼は私を腕から解放して隣に座らせると肩に腕を回して抱き寄せた。


「確かに紫衣はお父さんに溺愛されているからな。
きっと俺、虐められるんだろうな。」


佐和さんの軽い口調と虐められるなんて彼には似合わない言葉に私もくすくすと笑った。


佐和さんが誰かに虐められるなんて想像がつかないや…。


弄られるって事は想像つくし、現に島田さんにはかなり弄られまくってるもん。


虐められるって言葉に反応して、想像を巡らせると可笑しくなって私は声をあげて笑った。


「その顔、きっと紫衣がそうやって俺の側で笑ってる姿を見たら許してくれるって俺は信じてる。紫衣のご両親だって娘の幸せそうに笑う姿はいつだって見ていたいだろう?」


優しく微笑む佐和さん。

「そうだね。
私ずっと笑えなかった。紫衣と入れ替わった事の罪悪感や、慣れない生活の緊張感から笑ってる姿なんて見せてあげれなかった。」


私の言葉を聞いて佐和さんは立ち上がり、私の前に立つとまた、両手を広げて私が彼の腕の中に入るのを待ってくれる。


そして私が立ち上がり、佐和さんの胸に顔を埋めると、


「それが狙いなんだ!」

私をギュッと抱き締めながら茶化したように軽口を叩いた。


それは佐和さんの私への配慮。


きっとお父さんは佐和さんに酷いことを言うと思う。


態度だって酷いものに違いない。


だけど私が負担に感じないようにしてくれているんだよね。


「佐和さんがお父さんに虐められる貴重な姿を目に焼き付けておきます。」


だから私も佐和さんに軽い調子で言葉を返した。

「行こうか。」


そして指を絡ませるように手を繋いで病室に向かったんだ。