だけど単純な私はドキドキソワソワもすぐに消えて、車の外の景色の移り変わりに夢中になっていた。


「佐和さん、大きな鳥が飛んでます!」


はしゃぐ私に運転をしながらも必ず相槌を打ってくれる佐和さん。


途中トイレと休憩の為に寄ったパーキングに着く頃にはメールのことなんてスッカリ忘れていた。

「あれ美味しそう!
食べたい!」


お店の外に並ぶ出店。


私は七厘で焼いてある串団子のお店の前に駆け出した。


風景は違うけどお茶屋さん気分。


お団子を買ってベンチに座って食べていると、昔お父さんがお土産に買ってきてくれたお団子の味を思い出した。


「うちは裕福でない家で、甘いお団子なんて食べることは出来なかったんです。
だけど一度だけ、お父さんが買ってくれた事があるんですよ。」


気がつくとそんな事を口にしていた。


遠く懐かしい記憶。


貧しくて美味しいものなんて食べれなかったけど家はいつもあたたかかった。

「紫衣のお父さんは紫衣を大事にしてくれていたんだな。」


「はい。とっても。」


満面の笑みで応える私。

だけどお父さんにもお母さんにも、もう逢えないんだと思うと急に寂しくなった。


俯く私は心配するように抱き寄せられ、


「お父さん達に負けないくらい紫衣を大事にするよ。」


佐和さんは優しく囁いた。


あの時、あの水害の後、私はお父さん達と同じ道を選ばなかった。


橋を渡れば私はお父さん達と一緒に冥途で暮らせたのだろうか。


「ね、佐和さん。
冥途って信じる?」


「冥途?
天界のことか?」


「はい。」


「俺は信じてる。
天界があるからまた転生するんだろ?
人間が輪廻転生を繰り返していることを俺は知っているからな。」


「だったらお父さん達も冥途で暮らしてまた転生してくるよね。」


「そうだ。」


「逢えるといいな。」


「もう逢えただろ?」


くすくすと笑う佐和さんを首を傾げて見つめた。