「あ、拓海さん?」
「どうした?」
「これ…出す前に美樹ときちんと話したい。」
リビングの黒いローテーブルの上に置いてある紙にボールペンで名前を書きながら、美樹ときちんと話しをしなければと思う。
どんな形でも、私が美樹を…美樹の赤ちゃんを傷付けたのは事実でしかないから。
「……会うのは駄目だ。」
「どうして?」
「会えば君は傷つくだろう?可愛い奥さんが悲しむのは絶対に見たくないからな。」
スルリと恥ずかしい事を言う拓海さんは言葉とはウラハラにすごく真剣な表情で。
恥ずかしいのに、照れてる場合じゃない気がして私は眉を下げた。
「伊織が近くにいるはずだから電話をしようか。」
本当は会って話したい。
だけど、拓海さんを困らせたくなくて、頷いて電話を取り出す拓海さんの動きを見ていた。
「……あぁ、俺だ。」
俺だ、で通じちゃうんだ。
あ、そっか。名前が出るから名乗らなくてもわかるのよね。
幾分か柔らかい表情の拓海さんをチラチラと見ながら、ローテーブルに広げられた紙に住所の続きを書き込む。
「…悪かったな、それより彼女に変わってくれ。」
動かしていたボールペンを止めて、拓海さんを見れば目が合って、小さく頷いて携帯電話を差し出された。
話したいと言ったのは自分なのにいざ話すとなると勇気が出ないなんて、あまりにも臆病な自分。
「……も、もしもし、」
『なに、アンタまだなんか用があるの?』
返された言葉に眉を寄せて俯いたら、左手に感じる心地好い体温。
隣に座って優しく私を見守ってくれる拓海さんにたくさんの勇気をもらって。