両手を広げて、私を待っていてくれる人の下へ。
飛び込めば甘く優しい香りに包まれて、痛いくらいに抱きしめてくれる逞しい腕。


「ごめん、傷付けてごめんな、奏多…」

「拓海さん…たくっ」


我慢なんてできるはずなかったんだ。
大好きな貴方の傍を離れるなんてできなかったんだ。


「ごめんな……、愛してるよ」

「わ、たしも…拓海さんをあいしてるっ」


公衆の場なんて関係ない。
ただ、確かめたい。
今の幸せが本物なのか、消えてなくならないようにただ抱きしめてほしい。


頬に伝う水を大きな掌で拭ってくれる貴方は殊更に優しくて、余計に流れ落ちてしまうものを止めるのは容易なんかじゃない。

大きな掌が頬に触れて貴方を見上げれば私を見てくれる優しいダークブラウン。

どれくらいの間その優しい眼差しを見ていたかなんてわからない。できればずっと見ていたい。
でも、落ちる影に瞼を下ろしてしまうのはそれを何よりも自分が望んでいるから。


「愛してる、」


優しい音色と唇に感じた暖かい体温。それが、現実だと教えてくれる。
ただ確かめるように合わさる唇がさっきまでの暗闇を払拭してくれるか、だから私はどこまでも貴方に溺れてしまうの。


離れた唇に指が這わされて、瞼を持ち上げれば、ハの字に歪められた眉。


「傷になってるな…」


さっきまで噛み締めていた唇は自分の歯で酷く傷ついている。
それを優しく撫でられるだけで傷がなくなったかのような錯覚に陥るから。


貴方はきっと私のお医者様。