全部、本当の事?
そっか、マスターか妃毬が話したのかな。それとも美樹?

誰かが話さなきゃ知られるはずなんてないもの。


「君が…俺を赦してくれるなら、」


伏し目がちに話す拓海さんに私は何も言えない。違う、言ってはいけない気がした。
きちんと聞かなきゃいけないって私のなかの私が言うから。


「君が俺を赦してくれるなら…君の隣にいたい。いや、君の隣に立っていたいんだ。」


まっすぐな言葉は意図も簡単に私の中に入り込んで来る。
あれだけ悲壮していた気持ちも、別れを覚悟した気持ちも、何もかも今の私にはない。
ただ、まっすぐな言葉を聞かせてくれた拓海さんをこの目に焼き付けるしかできない。


「一度でも疑った俺を赦せないなら…何度だって謝る。君が何かを望むなら受け入れる。だから、俺にもう一度だけ奏多を愛する権利が欲しいんだ。」


そんなの、答えなんて一つしかないのよ?
私が望む事なんてたった一つしかないんだから。


「………何でも?」

「ん?」

「何でも…望んで良いの?」


我が儘になってもいい?

……幸せになっても良い?


「あぁ、何でも。奏多が望むなら何だってする。」

「っ…拓海さ、ん」


ただ名前を呼びたかった。
優しいダークブラウンに私を映してほしかった。
私の望みなんて、最初から決まってるんだから。その望みが叶うだけで、


「一緒にいたい、…拓海さんの隣にいたいっ…!」

「………おいで?」


ほら、こんなにも暖かくなれるんだから。
優しい笑顔で、優しいダークブラウンで、何より優しい低く甘い声で。ただ私の名前を呼んでください。