「ごめ、なさい…」


これだけの言葉なのに言うのにどれくらい時間がかかったの？
今の私には時間の感覚も、それどころか私が今どうしているかもわからなかった。


「謝ったってあの子は帰ってこないわよ！あんたが…っあんたがいるから私も姉さんも幸せになれないんじゃない！！」


拓海さんは何も言ってくれない。その変わりみたいに英部長が拳を握りしめたのがわかった。


「いくらなんでも言いすぎだろう！」

「………良い…良いんです。ありがとうございます、英部長。私なんかのために怒ってくれて」


やっとあげた目線には変わらず私を見ている拓海さん。
でも、冷たいダークブラウンに少しだけ困惑が混ざったように見えたのは私の勘違い。


「美樹、ごめんね…美樹の言う通りだね。」


無理矢理笑顔を張り付けて、美樹を見ればやっぱり昔みたいな人懐っこさはなくて。
私が美樹を変えてしまったんだね。

どんな状況だったとしても、美樹を応援するべきだったのかもしれない。

私があの時、不用意に言葉を紡がなければ…


「…………あの時…、私がいなくなればよかったね。」


そうだよ。
あの子にはなんの罪もなかったんだ。罪を持つのはワタシ。


「か、なた？」

「ウサギちゃん…何」

「ごめんね、美樹。」


私、きちんと笑えてた？
拓海さんと英部長の顔を見たらなんだか傷ついたような表情で、もしかしたら私笑えてなかったのかもしれない。


「拓海さん、ごめんなさい。英部長も…ごめんなさい、」


噛み締めた唇に感覚がない。
あるのはありえないくらいの胸の痛みと、口の中に広がる鉄の味。


「ウ…奏多ちゃん！口！」

「ごめんなさい…ごめんなさい……」


謝るしかない。
ううん、謝ったって済まされないのかもしれないけれど…
許してほしいなんて言えないのかもしれないけれど、


貴女だけは、
知られても赦されなくても、

共に歩んで行きたかった。