周囲は騒がしいのに私の周りだけはやたらと静かに感じてしまう。
一瞬にして冷えた指先はカタカタと震えがとまらなかった。
「相変わらず、お気楽なんだ。」
「ちょっと!」
「妃毬は黙ってて。……ねぇ、奏多。あんた私にあんな事したくせに自分だけ幸せになろうなんて思ってるんだ。」
声が出なかった。喉に何かが張り付いたみたいにただ息が漏れる音しか出せなかった。
目の前にいる美樹は昔のような人懐っこさなんてなくて、冷たい目をしているから。
「しかも如月 拓海?あんた、どれだけ他人を苦しめるの?」
「な、に…」
「由里。知ってる?」
美樹は笑ってるのに笑っていない。
どうして美樹が由里さんの名前を知ってるの?
聞きたいけど聞けない。怖いんだ、ただ…聞いたら幸せが崩れそうで怖い。
「知らないはずないよね?だって、言ってたもの。会社の社長室の前で奏多に会ったって」
聞きたい事はたくさんある。
言いたい事はたくさんある。
なのに何も言えなかった。
「………疫病神。他人の幸せを踏みにじるあんたに幸せになる権利なんてあるのかなぁ?」
「……美樹!あんたいい加減にしなさいよ!大体、全部自分が蒔いた種じゃない!」
「そうやって周りに助けられなきゃ生きていけないんだ。……どうやって拓海さんに近付いたの?あ、もしかして…身体?」
耳元で笑いを含んだように言われた言葉に目の前が歪む。
足がすくんで、自分がどうやってたっているかもわからなくて。
「身体……使わなきゃあの人は落とせないよね。相当イイんだね、じゃなきゃ…姉さんがあんたに負けるはずないもの。」
目は冷たい。
何が起きているの…?
由里さんが、美樹のお姉さん?
ありえない、なんて言えない。だって美樹には年の離れたお姉さんがいて。
会った事はないけどすごく綺麗な人だって聞いていた。