カフェの外に出て、緩んだ口許のままで電話に出れば聞きたかった愛しい声。
『もしもし、奏多?』
「うん、どうしたの?拓海さん」
『用事はないよ。ただ、奏多の声が聞きたかっただけだよ。』
機械を通して聞こえる声でもこんなにも幸せになれる。
ほかほかとした気持ちが嬉しくて、用事もないのにわざわざ電話をくれた拓海さんに会いたくなった。
『同窓会、終わったら迎えに行くよ。』
「拓海さん忙しいんだから大丈夫だよ。帰りはちゃんとタクシー使うから…」
『俺が奏多に会いたいんだよ。』
そんな事言われたら断るなんてできるはずがないでしょう?
「終わったら連絡する。」
『待ってるよ。…奏多、』
「ん?」
『愛してるよ。』
機械越しに響く囁きに嬉しいのと恥ずかしいのが入り混じる。
小さく、私も、と返すのが精一杯の私にクスクスと笑う拓海さん。
『夜にたくさん聞かせてもらおうかな。』
「っ拓海さん…」
『ははっ、じゃあまた夜に。』
貴方の声ならどんな声だって愛しいの。
夜に、と言い切れた電話を胸に抱いて幸せを噛み締める。
思えば、貴方の優しい声を聞いたのはこの時が最後なのかもしれない。
この後、数時間も経たないうちに噛み締めた幸せが崩れるなんて、この時の私は考えてもいなかった。