一ヶ月前、"不倫"と言う現実が自分が思う物と掛け離れたものだと知ったから。
「今日だって美樹が来るかわからないし…気にしないでよ。」
「うん……そうだね。」
それだけしか言えなかった。
頭では理解しても、心は付いていかないのが人間なんだから。
「お腹空いたね…何か頼む?」
「ふふ…妃毬は相変わらずマイペースなんだから。」
「それ、奏多にだけは言われたくないわ。ほんと…何だっけ?」
「ん?…あぁ、拓海さん?」
名前を口にしただけでドキドキする鼓動。
それに気付いたのか、呆れたような視線を向けられて慌ててアップルティーを口に運んでごまかす。
「その拓海さんと付き合い始めてから余計に天然になったんじゃない?それじゃあアンタの彼も大変だね。」
ため息を吐き出す妃毬に私は意味がわからずに首を傾げた。
拓海さんと付き合い始めてから?それから私は拓海さんしか頭にないから心当たりはない。
それに言葉の真意もよくわからないんだから。
「良い良い……アンタにはずっとそのままでいてほしいわ。」
「意味わからないよ、妃毬…」
「奏多はわからなくて良いのよ。……ほら、鳴ってるよ。」
ますます首を傾げても意味あり気に笑われて交わされる。
妃毬に言われ気付いた着信に口許を緩めればまた呆れたように見られ、気まずさから携帯を手に持って席を離れた。