膝を付く人のすぐ傍で私も膝を付いてその人を覗き込む。


「大丈夫ですか?」


初老の男性は真っ青な顔色で額にじわりと汗を浮かべ、どこをどう見ても大丈夫、には見えなかった。


「おじいさん…救急車呼びましょうか?」

「……いや…大丈夫だよ。」


いやいや、どう見ても大丈夫じゃないでしょ。なんて考えながら、とりあえず車道に近いこの場所は危ないと、おじいさんに肩を貸しながら会社の前に置かれたベンチに移動する。


「大丈夫…じゃないですね、やっぱり救急車…」

「ただの貧血だよ、ありがとう。お嬢さん。」


よく見ればとてもダンディなカッコイイおじいさん。さっきよりは少し良くなった顔色、それでも青白で眉を寄せてしまう。


「…お嬢さんはこの会社の?」

「あ、はい。経理課に勤めているんです。」

「それは…すまなかったね。仕事中なのに…もう戻りなさい。」


何を言うんだ、このおじいさんは。
こんなに顔色の悪いおじいさんを置いてけぼりなんてできるはずがない。
私は首をおもいっきり振っておじいさんの目を見ていた。


「具合の悪いおじいさんを置いて仕事なんてできません。もしこれで怒られたらやめてやりますよ!」