私に気を使ってくれたのか、着替えている時は背中を向けてくれていた拓海さん。

上品な形の中にも可愛らしさがあるワンピースは私が着たら見劣りしてしまいそうなほど綺麗なお洋服。


「……やっぱり、すごく似合う」

「ワンピースが可哀相…」


着替えても声をかけられなかった私の後ろから回された腕にポツリと呟けば、首筋に吸い付くように口づけられる。


「そんなわけないだろう。可愛いよ、とっても。」


当たり前のように甘く囁く言葉にほんの少しだけ勇気を持てば、満足したように笑ってくれる。


「可愛い奏多を誰にも見られたくないけど…行こうか。」

「もう…」


お世辞だとわかっていても好きな人に言われれば嬉しい。
冷たいフローリングに素足を付け、拓海さんに手を引かれるままに部屋を出る。


「ひろ…」

「祖父の趣味だよ。」

「おじいさんの?……あぁ…」


変に納得してしまった私にクスリと笑う拓海さん。


「奏多に会いたいって言ってたみたいだけど。」

「私も会いたかったなぁ…」


一度しか会った事はないけれど、とても気さくなダンディなおじいさんだった。
どこか拓海さんと似通っていて、一緒にいるだけで安心できてしまうようなおじいさん。


「……身内にヤキモチを妬くとは思わなかったな。」


ポツリと拓海さんが呟いた言葉の意味がわからずに首を傾げれば曖昧に笑ってごまかされてしまう。


それにしても、この廊下はどこまで続くのか。
本当に広いお家にキョロキョロと回りを見てしまうのは致し方ない事だと言ってほしくなる。