ただ廊下を歩くだけで、


「お使い?ウサギちゃん。」


なんて言われて愛想笑いで交わし続ける。二年も経てば慣れてしまうが、陰湿な視線にはどう転んでも慣れてはいけない。
今日だけで何回目かわからないため息を吐いて何気なく外を見ればミニカーのように小さい車達。


「………あっ、」


思わず駆け寄った先には窓から広がる景色。自慢になるかはわからないが、視力だけは誰よりも良い私は一点を見つめたまま眉を寄せた。

秘書課に急ぎでって言われる書類を持ったままどうすべきか。
迷うなんて選択肢はなかった。

ヒールの少し高いパンプスで走り出した私を首を傾げて見ている社員達。
周りの視線を気にする余裕は今の私にはない。


全速力で駆けてエレベーターで一階に降りればまた全速力で駆ける。
回転ドアを抜ければ車道に近い場所で膝を付いている人。
周りはその人には見向きもしない。都心の人は冷たい。そんな事を考え、人に近づく。