俺の腕に抱かれたまま眠る奏多が愛しかった。
どれだけ泣いたのか、安易に予測できてしまうほど目の回りを赤くしているのにはキシリと胸が痛んだが。
「拓海、早く乗れ。」
「あぁ、悪い。」
伊織が回した車に奏多を起こさないように乗り込み、シートに背を付けたところで一つ息を吐き出した。
「由里、来たんだってな。」
運転席から投げ掛けられた言葉にドキリとしながらも平静を装い、ため息を吐いた。
「ウサギちゃん、何言われたか聞いても言わないのな。」
「…優しいからな、奏多は。」
「だな。」
プツリと切れた会話で、また奏多を見ればまだ目尻に涙が溜まっている。
どんな事を言われたのか。
どんな気持ちだったのか。
どれだけ傷ついたのか。
知りたい事を挙げればキリがなく、今はただ腕の中に戻ってきた寂しがりやな君を見ていよう。
なにも言わなくても目的地がわかっているように走る伊織、奏多を見つけたのがコイツでよかったのかもしれない。
不謹慎かもしれないが、奏多の泣き顔を他の男には見せたくないんだ。
伊織にも、見せたくなんてないが他の男よりはマシだと自分に言い聞かせる。
「他の男じゃなくてよかったな。」
「……そうだな。」
考えていた事をずばりと言われ、苦笑しかでない。
会社から自宅まではどんなに飛ばしても1時間は掛かる。
だからか、伊織がこの目的地を選んだのは。
「悪かったな、色々と。」
「気にするなよ、それより早く寝かしてやったほうが良いんじゃね?」
車が止まり、そう言えば事もなげに返された言葉。
伊織はすでに車を降りて伸びをしている。
車を降りる時も奏多を起こさないように、無駄な程に気を使い、地面に靴底をつけた。