背中に精一杯腕を回して、できるだけ声を出さないように涙を流している私を拓海さんはただあやすように背中を撫でたり髪を撫でたり、それがなんだかすごく落ち着けて。


「伊織、悪かったな…」

「いや、気にしなさんな。それより…」

「わかっている。…奏多、此処だと君が泣いているのが見られてしまうから、一緒に帰ろう?」


優しい言葉にただ頷いてみれば、ふわりと体が浮いて、気がついたら拓海さんに抱き上げられていた。


「た、拓海さんっ」

「降ろさなさいよ。奏多は大人しく抱かれていなさい。」


有無を言わせない言い方に押し黙るしかない私は逆上せたように赤くなる顔を見られたくなくて目の前にあった拓海さんの胸板に額を押し付けていた。


「拓海、見られないように裏口に回れ。車出してやるから。」

「悪い、頼んだ。」


頭上で交わされる言葉に私は顔を上げる事すら出来ずに聞いている。


「じゃあ私は葵さんの荷物取りに行くわ。もうすぐ定時だし、私も話しが聞きたいから行くわ。」

「いや、」

「行くわ。いいわよね?」


それこそ有無を言わせない円香さんに押し黙る拓海さんと英部長。
もしかして、この中で一番強いのは円香さんなんじゃ、なんて考えながら拓海さんの体温と優しいフレグランスの香りにまどろむようにウトウトとしてしまっていた。


「奏多、眠いなら少し眠りなさい。着いたら起こすよ。」

「ん…」


コクリと小さく首を振る私の額に温かい唇が落ちてきて、それを合図にしたようにプツリと意識は遮断されてしまった。