もしかして、円香さんはあの女性が好きではないのだろうか。
「考えただけで腹立つわ。」
「………もう少し言葉使いを気にしたらどうなんだよ。」
「仕方ないじゃない。あのクソ女…今更拓海に戻るなんてっ!それに拓海の彼女は葵さんでしょう!!私は葵さん以外なんて絶対に認めないわよ!」
何だかおかしな方向のエキサイティングに私はなにも言えずにただ般若のように怒り狂う円香さんと呆れたように円香さんを見る英部長を交互に見るしかない。
「だいたい!なんで今更?ほんと、頭どうにかしてるわ、あのクソ女!!」
「女の子がクソクソ言わないの。…っと、ほら、ウサギちゃん。お迎えだよ。」
呆れ返る英部長は私の後ろを見て、さっきみたいな優しい笑顔で私にそう言う。
「お迎え…?」
「奏多、ごめんな。」
ふわりと香るのは貴方のフレグランスで、回された腕は貴方の逞しいそれ。
耳元で囁かれるのも、低く甘い声で、ただそれだけで全身に一気に血が逆流したみたいにドクドクと波立つの。
「っ…た、くみさん?」
「ごめん、何か言われたんだろう?」
拓海さんの声だけでわかるよ。
すごく落ち込んでるって。泣きたいのかなって。
「ぅ…拓海さ…」
止まったはずなのに、また頬に生温い涙が伝っていた。
貴方の体温を感じただけで、こんなに弱くなってしまうなんて考えもしなかった。
ただ、貴方がいるかいないか、それだけで私は強くも弱くもなってしまうなんて。