「本当にどうしたの?拓海になんかされた?」
心配そうに私を覗く瞳にただ、首を振って否定した私。
「じゃあ、ダレカにナニか言われた?」
「っ…」
わかりやすい反応だったのか、苦笑を浮かべながら、そっか、と呟く英部長にいたたまれなさでただ流れる涙を拭った。
「…お…なの人…」
「ん、なに?」
「っ女の人…拓海さんの彼女だって…っ」
よくわからない私の言葉を解読したのか、珍しく眉を寄せ、怒りを隠せない表情の英部長に私は何かまずかったか、と頭の中で考えてしまった。
「拓海の彼女はウサギちゃんだろ。誰だよ、んな馬鹿な事言うやつ」
よかった、私に怒ったわけじゃないんだ。
ようやく止まった涙を目尻から拭って、立ち上がった私をまた心配そうにみている英部長に無理矢理愛想笑いを張り付けた。
「私…戻りますね。」
「待った。今日はもう良いから拓海と話しな?」
「そんな…」
「柏木には電話する。なんなら拓海に迎えに来るようにも言うし。さすがの俺でも狼の群れにウサギを放すわけにいかないでしょ。」
少しおどけた言葉は私を気遣かってくれたものだとわかるから、今はムカつかなかった。
拓海さんに電話は丁重にお断りして、円香さんにだけ連絡してもらうようにお願いした。