なかなか止まってくれない涙を拭い、拓海さんの元の恋人だと言う女性を思い出す。
何をとっても完璧に見えた。
二十歳そこらの何の魅力もない私が太刀打ちできるような女性ではなかった。
もしも、拓海さんが彼女に好きだと言われたら…拓海さんは彼女を選んでしまうのだろうか。
考えただけで、また涙が流れる。
自分でもびっくりするくらいに私は拓海さんを好きになっていたんだ。
ダークブラウンの瞳に見られるだけで心がふわふわした気持ちになる。
あの低い甘い声で呼ばれただけではしたないくらいに身体が熱くなる。
「敵うわけないっ…」
「なーにが敵わない?」
突然降ってきた声に肩がびくりと持ち上がってしまった。
「………どした?」
「っ…ぅー……」
しゃがみ込んで私の頭を撫でてくれる手にまた涙がこぼれた。
「なになに、泣いてちゃわかんねぇよ?ほら、泣き止みな?ウサギちゃん!」
「う、ウサギじゃ…ないっ」
いつものように、ウサギ、と呼び頭を撫でてくれる英部長。
しゃくり上げながらみっともなく反抗する私に困ったように眉を下げた英部長に申し訳なさが湧き出て、余計に顔を上げられなかった。
「何があったの?さっきまでウサギちゃん、拓海んとこ行ってたでしょ。」
拓海さんの名前だけでびくついてしまう私に怪訝そうに眉を寄せ、小さくため息を吐き出した。