近づく体も、纏わり付くような甘い香りも、昔ならば当たり前に受け入れていた。
「…………離れろ。」
「え…拓海?」
「お前にもう何の感情もない。…俺には、彼女がいればいい。」
どれだけ魅力的な女でも、彼女に敵うはずない。
俺が今、会いたい、触れたい、身体を重ねたい、そう思うのは彼女以外にはいないのだから。
「あんな小娘…すぐに飽きるわ。だって拓海は私を愛してるでしょう?」
自信過剰に言う由里、それよりもなぜ奏多を由里が知っている?
会った事などあるはずがない。
「……奏多に何かしたのか?」
「ふふっ…対して魅力もない小娘…そんな女より私の方が」
「答えろ。奏多に何をした。」
自分でも驚くほど冷たい事が出る。驚きに口許を引くつかせる由里には興味はない。
「由里、答えろ。」
「っ…別に何もしてないわよ。ただ、拓海は私のモノってわからせただけ。」
妖しく笑う由里に、何かが切れていた。
由里を力任せに引きはがし、床に倒れ込んだところを見下ろす。
「たく」
「二度と俺や奏多の前に現れるな。奏多に何かあれば…コロス」
ぞっとするような台詞でも容赦なく吐き出す。
彼女を、奏多を傷付けるモノは何であれ絶対に許さない。
床に座り込む由里に目も暮れず、開いたままの社長室の扉へ歩く。
奏多、君はいま何処にいる?