彼女と離れて数十分も経たないはずなのに、会いたい。


「まさか…俺がハマるとはな」


それでも悪い気はしない。
むしろ心地好いものなんだ。

広い社長室で、奏多を思う俺は気がつかなかった。
奏多が今どんな気持ちで何をしているのか、それを誰の手で引き出されたものなのか。




前触れもなく開く重い扉、現実に引き戻されたようにそれを見れば時が止まったような錯覚すらある。


「拓海。お久しぶりね?」

「…ゆ、り……っ」


五年前、愛した女。
当時、いずれは結婚すらと考えていた女でもあった。

なぜ、今この女が此処にいる?


「話しがあるの、貴方に。」

「っ俺はない!さっさと此処から立ち去れ!!」


此処を、彼女の香りを消すな。
あれだけ愛した女でも、今はなんとも思わない。

今は、奏多の事しか考えられない。


「あの時はごめんなさい…でも…やっぱり拓海しかいないの。私と」

「黙れ。あの時に俺とお前は終わったんだ。」


何を言う?俺を裏切り去ったお前を俺が許すと思うか?
言いたい事は山とある、それでもこの女を此処から消したかった。


「拓海…愛してるの!私には貴方しかいない、貴方しかいらないのよ!」

「………ゆ、り…由里…っ」

「やり直せるわ。私と貴方なら…あんなに愛してくれていたでしょう?今も、私だけよね?」


いつか、伊織が言っていた。
「由里は悪魔だ」と。

俺は、心の中では奏多だけだと、そう訴えているのに…
心と体は別物のように、目の前の女、由里から目を離せず、腰に回る奏多とは別物の腕を切り離せないでいるんだ。