エレベーターへと乗り込んで何度も何度もパネルを押す。そんな事をしたって早く目的地へ着くわけじゃないのに。

ポーン、と小気味良い音でドアが開けばスルリと箱を抜けて走り出す。
何人かとぶつかりながらもたどり着いたのは給湯室。此処は滅多に人が来ない実の所の穴場。


「っ……た、くみさ…」


ズルズルと扉を後ろに座り込んだら、当たり前のように濡れている頬。口を開けば出てくるのは大好きなヒトの名前。

さっきまでのふわふわした気持ちなんて微塵もなくて、あるのはただ惨めな苦しい気持ち。


あれだけカッコイイ人。
過去にどれだけ付き合ったヒトがいるかわからないけど、さっきの綺麗な大人の女性もきっと拓海さんの昔の恋人なんだろう。


「っ…敵うわけないじゃん…」


綺麗だった。
拓海さんの隣に立っても見劣りなんかしないくらい。
私が立てばちぐはぐなくらい不自然なのに、あのヒトが立てば当たり前に見えてしまいそうで。


「ぅ…ふぇ……っ」


自分が情けないくらいに惨めで、でも拓海さんには言えない。
もしかしたら、私はただのお遊びなのかもしれない。

いまは、何を考えたってマイナスにしかならなくて。

早く戻らなきゃ、と流れる涙をどうにか留めるように何度も何度も涙を拭っていた。