「全く……敵わないな、君には」
苦笑気味にそう言う拓海さんは可愛くて、口許が無意識に緩んでいたみたいで片眉を器用に上げた拓海さんが目に入る。
「た、拓海さん…?」
「悪い子にはお仕置きだな。」
楽しそうに、意地悪に妖しく口許を緩ませる拓海さんに体が引けても、体に巻き付く逞しい腕がそれを許さない。
「こらこら、逃げたら駄目だろう?」
「っ…し、仕事が…」
「今は俺だけ見てくれ、俺も君だけ見るから」
当たり前のように言う拓海さんは子供みたいに拗ねていて、初めて見る拓海さんにクスクスと笑ってしまう。
言われなくたって、私は貴方しか見ていないのよ?
貴方にならどんな事もしたい、どんな事でもしてみたいって、
ただの貧欲な馬鹿な女になってしまうんだから。
「奏多は本当にウサギみたいだ」
「……ウサギって言われるのキライなのに。」
「悪い意味なんかじゃないよ、可愛くてふわふわしてて寂しがりやなウサギだ。」
あれだけ嫌だったウサギって呼び方も、貴方に呼ばれるだけで好きになれそうよ。
ほら、すごく単純な女でしょ?
「今日、終わったら迎えに行くから待っていなさい。」
「…………ダメ!そんな事したら会社に…」
「会社のエライ人は?」
職権乱用だ、なんて思うけど、嬉しいって思うのは罪ではないよね…?
ずっと、こんなふわふわとした幸せが続けばって、
ただそれだけを祈る。