拓海さんと恋人になって二週間、もともとすごく忙しい拓海さんと二人で会う事はなく、会社でも姿を見る事もなく二週間が過ぎてしまっていた。
「葵さん?」
「…あ、円香さん…」
「大丈夫?」
円香さんの言う大丈夫、は拓海さんの事を指している。
私が拓海さんと恋人になった事は円香さんと物凄く嫌だけど、英兄弟だけだ。
「あはは…はぁ…」
「拓…忙しいから仕方ないかもしれないけど、寂しいわよね…」
円香さんは拓海さんを拓と呼んでいる。理由はただ、幼なじみだからだ。親同士が仲の良いあまり有り難くない友人だと円香さんは苦い表情で言っていた。
「そうだ、これ…社長室に届けてほしいのよ。」
周りに聞こえるようにそう言う円香さんは周りには見えないように口元を緩ませる。
拓海さんと付き合っている事は私の希望で秘密にしているから口実がなければ社長室など行けるはずもなく。
行ったところで、あの秘書課の室長に追い出される。
それを見越して、円香さんは私にこの目の前の書類を渡してくれたのだ。
「それじゃあ、よろしくね。」
「わかりました!」
緩む口元を無理矢理引き締め、スキップしたくなる足を早足に変える。
あぁ、私は自覚しているよりもずっと拓海さんが好きなんだ。
初めて会長室で拓海さんを見て、胸が高鳴ったのも、あのダークブラウンの瞳に吸い込まれそうになったのも、すべて、きっと運命だったんだ。
私はきっと、拓海さんに一目惚れと言う初めてと恋をしたんだ。