「葵さーん、コレ秘書課にお願いできる?」
「はい、わかりました。」
見ていた画面から少し離れた場所に立つ上司に返事をして椅子から立ち上がる。
葵 奏多、もうすぐ二十歳になる私は最終学歴が高校にも関わらずに日本でも三本指に入るような会社に勤めている。
今のご時世、就職難なんて言われる時代にたいした学歴を持ち合わせない私が此処に就職できたのは本当にラッキーなのかもしれない。
「秘書課にコレ、あとは…総務にコレもね。あ、秘書課のコレは少し急ぎでって伝えてくれる?」
「わかりました。」
目の前で書類を私に手渡してくるのは私の上司で経理課の部長、柏木 円香さん。僅かに二十八歳で部長を勤める円香さんは去年まではパリにある本社から戻った所謂エリートと言うやつ。
「それ届けたらランチ行っちゃって良いからね?」
エリートで美人、そのうえ優しい気配りができると来たら世の中の男はこぞって争奪しそうだな、なんて呑気に考えながらも私は書類を抱え、軽く円香さんに介錯してから経理課を出た。