ある湖の西のほとりに小さな祠(ほこら)が立てられていた。
 
昔の人々が、その地を流れる水の精霊を祀ったものだった。
 
人々はその精霊に祈りを捧げ、子供達の寝物語として話して聞かせた。
 
水の精霊は月の綺麗な夜、その姿を現し、湖面で水と戯れているのだ、と…。
 
子供達はその話を信じ、また大人達の中にも信じる者はいた。
 
そうやって、伝承されていったのだ。
 
しかし今はもう、この祠を祀り、祈る者はいなくなってしまった。
 
祠は傾き、省みる者もいなくなり、その存在すら人々は忘却した。
 
しかしそうなってしまった今でも、水の精霊は湖で水と共に舞い、その水鏡に月の光を反射させ、世界を映す。
 
湖の水がひっそりと澄んでいたなら、それは水の精霊が現れた名残。
 
人々は、けれどそれには気付かなかった。