私はこの心臓一つで生きている。
この心臓がなくなれば、もはや生きることは出来ない。
 
てのひらに乗るほどの大きさでしかないこの塊が、私に生の道を歩かせる。
時々、一思いに握り潰してしまいたくなる。
でもこの心臓は、私にそれが出来ないと知っていながらも囁くのだ。
 
〈殺れ〉
 
いつか、本当に握り潰してしまおうか。
歩き疲れた私にもそれくらいの力は残っているだろうから。
 
〈本当に出来るのか?〉
 
囁くのだ。
 
〈お前はそんなこと望んじゃいないさ〉
 
うるさい。
黙れ。
お前に何が分かる。
 
〈分かるさ。互いにどちらが欠けても生きられない。お前も分かっているはずだろう?〉
 
分かってるよ。
だから苛立つんだ。
壊したいのに壊せない。
壊したくないのに壊したい。