バクバクと強い脈を感じながら、未だに重みを受ける右側を振り返った。
「よう、姫村。しっかりやってるか。」
アドバイザーの茂木さんだ。
アドバイザーは一クラスに一人配置されている、いわゆる何でも相談員。
茂木さんは僕のクラスの担当だ。
この学園で体育科の教員をしていたらしいおじいさんだ。
熊のようにがっしりした体格で、肩に感じる重みも大きい。
「それ、締め切り過ぎてるだろう。進路決まんないのか。」
アドバイザーが詰めている相談室はホールに面している。
わざわざ出てきてくれたのだろうか。
「今日、眉村先生に催促されてこの存在を知ったんです。だから今考えてるところなんです。」
「進路は調査書ありきか。おまえぼけーっとしてるもんなあ。大学に行くのか?」
「一応。」
「一応ってなんだ。将来何やりたいんだ。」
「まだ特にないです。いよいよ何もなかったら家業を継ごうかと思ってますけど。」
やりたいことがないのもそうだけど、自分が今より年をとって、仕事をしているという未来が想像できない。
「おまえんち何やってんだ。」
「呉服店です。」
「へえ。地元京都だったよな。いいなあ。でもおまえは着物似合わんだろう。」