「京都で呉服屋を営んでるんだ。一応、老舗とは言われてるけど、古いのが取り柄の小さな店だよ。」
「そんな輝かしい顔しちゃって、ごまかしてるのバレバレよ?母方の方はどうなの?」
鋭い。
「いいとこ突くね!言っちゃえ言っちゃえ!」
囃し立てる陽光は医者の家系の気楽な末っ子だ。
「製薬会社で働いている親戚が多いかな。」
特別なことではないでしょう?と困ったように言えば、陽光が意気揚々と口を挟む。
「おじいちゃんがノーベル賞授賞を噂される有名な研究者らしいよ!」
ああ、どうしてくれよう。
「ひーちゃんなんか隠してるっぽかったからネットで調べたら出てきちゃってさ、びっくり!」
二人も驚いた顔をしている。
僕自身のこと以外で注目されたり期待されたりするのが嫌だから秘密にしているのを、この少年はわかっているのだろうか。
彼の無邪気さは時に無性に腹を立たせる。
「頭のできはおじいさま譲りなのね。」
そうそう、そういうところ。次は君が授賞を狙わないとね、とか。
「会ってお話してみたいです。」
気分の落ちる言葉が続くと予想したけれど、宮藤はにこにこと予想外のことをいい放った。