『…愁弥とケンカした…。』
「はぁぁ!?…とりあえず中に入って。」
外は真っ黒い闇に包まれてコウモリが飛んでいる。
「もぉ。何でケンカしちゃったかなぁ…。」
『私が…我がまま言ったから…。』
再び溜まる涙。
『予定日に仕事が入っちゃっただけで私がやだって我がまま言ったの…。ぅ…うぁあんッッ』
止まらない涙。
バカなママでごめんね。赤ちゃん。
「美希は…一人で頑張れるでしょ?愁弥君がいなくたって。」
『頑張れる…頑張れるけどぉ…。』
「じゃあ、頑張りなよ!美希は、ママになるんでしょ?」
『うん。』
私は、菜穂チャンが入れてくれたアイスティーに手を伸ばした。
冷たくて、今まで引っかかっていた物が全て流れていく感じがした。
『おいし。』
「好きなブランドだからね!」
ニンマリと笑う菜穂チャン。
ありがとう…。
ピンポーン…。
「お迎えが来たよ。何でここが分かったんだろうね?」
「美希!ごめん。」
申し訳なさそうな顔をして立っている愁弥。
『私も…我がまま言ってごめんね。』
車の中には私の好きないちごチョコが入っていた。
「ご機嫌とりッッ!!」
そういって笑う愁弥に申し訳なくて
『私、頑張るから!一人でもッッ!本当にごめんね。』
何度も、何度も謝ってしまった。
「いーの♪もう終わったことだし!…そうだ、パスタ食べに行くか♪」
『うん。』
私と愁弥が気に入っている生パスタのお店へ直行。
『バジルがいいなぁ…。』
「俺、アンチョビ♪」
今日のパスタはいつもより一段と美味しくて
笑顔がたくさんこぼれた。
…。
『おーいッッ!赤ちゃん…。』
予定日はもう1週間も過ぎてしまった。
けど赤ちゃんが一向に生まれる様子も無く
愁弥なんか毎日毎日赤ちゃんに向かって
「早く生まれてこいよー。」
とか
「いつまでここにいるんだぁ?この親不孝者ぉ(笑」
なんて言ってる。
いや、ホント生まれてきてくれないと困りますよ!?
赤ちゃん…。
『早く生まれておいでよ~。ホントに、』
愁弥が出演している生放送特番をボーっと見つめながらご飯を食べた。
今日、愁弥帰って来ないんだっけ?
お腹が張る~。
『ごちそうさま~ッッ!』
番組は録画してあるし♪
お風呂入って来よう~。
脱衣所に新しい入浴剤を持って。
『…何…コレ…どうしよぉぉぉ!!!』
こ…これ確かおしるしとか言う奴だった気がする…。
愁弥居ないけど!?
どどどどどうしよ!!
とりあえず菜穂チャンに連絡してすぐに来てもらうようにした。
服を着替えて入院準備もした。
愁弥はきっと電話は気づかないからメールで。
『…いッ…たぁあ…。』
お腹の張りっぽいものはまさかの陣痛だった。
「CM入ります~。」
生放送キツっ。
途中にニュースが入るらしく俺は美希にメールしようと思ってケータイを開いた。
【新着メール1件】
「誰からだぁ?」
美希から頑張れメールとか?
from 美希
件名 無題
愁弥、落ち着いて見てね?
赤ちゃんが産まれそうになったの!
まだ家なんだけど…。
これから菜穂チャンが来て一緒に病院にいきます。
まぁだ産まれないから心配しないでね。
頑張りまぁす☆
「・・・・・・落ち着けねェよ!!!!!」
何でこのタイミング!?
マジかよ…。
「青樹君。どうしたの?」
声をかけて来たのは女優の華蓮さん。
「やばいやばい。美希が…!!!どうしよどうしよ!!」
「美希ちゃん産まれるって?」
…透視!?
「大丈夫!そんなすぐに産まれないから♪・・・って行かなくていいの!?」
華蓮さんは2児のママ。
頼もしい!!
「ってかきょどってるから。大丈夫?」
「だッ、大丈夫です…たぶん。」
「途中で抜け出すんだなぁ~!」
美希~!
早めに行くから待ってろよ~!!
『菜穂ちゃぁ…ん!!』
もう汗なのか涙なのか分かんない。
こんなに私の体水分出して大丈夫!?って位水分出てるし。
「美希、大丈夫だから~。」
大丈夫じゃないし!
内心菜穂チャンを恨んでいた。
「青樹さん。そろそろ分娩室行きましょうか。」
看護師さんの合図で隣の部屋へ。
「美希。待合室で待ってるよ~♪頑張って!」
『…ふぁ~い…。』
この返事が精一杯だよぉ…。
目の前が霞むー。
このまま私、死ぬのかなぁぁ…
「美希ッッ!?」
あぁ、愁弥の声が聞こえてくるわ…。
愁弥の幻覚も見える~。
「美希?大丈夫か?」
『…愁弥!?』
何で愁弥がここにいるのさ??
「番組途中で抜け出してきた!!」
テレビと全く同じ衣装。
髪もちょっとくちゃってして…。
『あり…がとぉぉ…!!』