「泣かないで」

子供をあやす母親のように、早苗の細い肩を抱いた。


「翔が好きなのは梓なんだよ」


零れる涙を指先で拭いながら言った早苗の言葉に、動揺してしまう。


翔があたしを?

そんなこと、絶対にあり得ない。

翔は一度だってあたしにそんな態度は取らないし、むしろ邪魔だと言っていた。

早苗は何か大きな誤解をしているに違いない。


「そんなことないよ!翔があたしを好きなんて絶対ないから!あたしはヨシの彼女で、翔とはただの友達だし、翔のことなんて何とも思ってないから」

“何とも思ってない”

訊かれてもいないのに、嘘の気持ちを言った。

早苗を安心させるために、自分自身を騙すために、口から出任せを述べた。