「梓、ちょっと2人で話せる?」

「うん。あたしの部屋に行こう」

話したいこと。

それはきっと翔のことだ。

心配そうに見つめるヨシに軽く笑顔を向け、早苗と一緒にキッチンを出た。


「大丈夫?」

まずは一言、あたしから声をかけた。

早苗をベッドに座らせ、あたしは床に腰をおろした。

「あたし翔のことが好きなの。この間、気持ちを伝えたんだ」

「うん」

胸の奥を何かで掴まれたような息苦しさを感じた。

「翔に、好きな人がいるって言われたの」

早苗はうつむいたまま、小さな肩を震わせて泣いた。

翔に

好きな人。


翔にだって好きな人くらいいるよね。

そうだよ。

当たり前のことなのに、認めたくないあたしがいる。

翔はずっとずっと誰とも付き合わないで欲しい。

そんな勝手なことを考えている自分の醜さに、驚いてしまった。


早苗はさらに大粒の涙を流しながら、「諦めたくない」と繰り返した。