理性より先に動いたのは、本能だった。
「さなえ…」
俺はゆっくり立ち上がると、ゆらゆら歪む世界の早苗に手を伸ばし、強引にその体を引き寄せた。
早苗の手から、せっかく用意してくれた水が落ちる。
コンクリートに吸い寄せられるように落ちた水は、吸収されずに範囲を広げていく。
早苗を壁に押し付けると、無理矢理に唇を奪った。
目を閉じずにいる俺と、
目を閉じて俺に答える早苗。
冷えた髪にそっと触れる。
「俺の部屋に行こう」
早苗は恥ずかしそうにうつむき、小さく頷いた。
これで、いいんだ。
ばいばい。
梓。
ばいばい
俺の初恋。