唇に残る早苗の感触。

俺はおもむろに制服の袖で唇を拭った。

「なにやってんだよ、俺は」

廊下の壁にもたれかかると、そのひんやりとした冷たさが心に染みる。

早苗と付き合っちゃえよ。

俺の中にいるもう一人の俺が言う。

早苗は顔だって可愛いし人気だし、見ての通りの巨乳。文句のつけどころがないじゃないか。

そうかもしれない。

だけど

俺が好きなのは
俺が欲しいのは

他の誰でもない、梓なんだ。


誰もいない静かな廊下に、俺の溜め息だけが響いた。