渉は、真っ直ぐに前を見据えるその人を見ていた。
愛しい人に良く似た姿。だが、意志の強そうな瞳は、彼女が忌み嫌っていた灰を映している。それはまるで、誰も近づけないように針を巡らせているようにも見えた。

『新入生総代、松永千鶴』
「はい」

体育館に響くまだ幼さを残すその声は、どこか切なげで、渉は視線をそらすことも出来なかった。

「総代の子、松永さんの弟らしいよ」
「まじ?だからあんなに綺麗なのか」
「てかさ、目見たか?灰色だぜ、見えてんのかな?」
「目があったら石にされたりしてな、怖っ!」

千鶴に向けられた心ない言葉が渉の耳にも届く。
これが、珠希の通ってきた日常だというのか。
こんな言葉を、なぜ平気で人にかけることができるのだ。

「……おまえ等の方が、よっぽど怖えぇよ」

小さな渉の呟きが届いたのか、千鶴に向けられた冷たい言葉は止んだ。