この季節になると、満開の桜が私たちを迎えてくれる。
一年前の今日。この桜に迎えられた私のように、今年は私の弟がこの桜並木を通ってやってくる。
松永珠希はこの並木の向こうにある桜嵐高校の生徒会に在籍している。
桜嵐高校は、田舎であるこの長野の山中に建てられた、昔ながらの風情を残された半寮制の学園である。
「……千鶴くん」
珠希は目を見張るほどに美しい桜を眺めながら、弟の名前を呟く。
松永千鶴は珠希と年度を跨いで生まれた双子の弟だ。いつも一緒で、お互いがお互いを一番知っていた。千鶴は珠希の全てをわかってくれたし、珠希は千鶴の事ならよくわかった。
一年前のあの日までは……。
「珠希!」
背後から聞こえた優しい声。振り返れば息を切らせ走り寄ってくる人。
四条渉。昨年出来た珠希の彼氏だ。
「渉くん、おはよう」
「おはよう、珠希。今年も同じクラスだといいな」
「……そうね、そうだと嬉しいわ」
珠希の表情が浮かないのに気づいたか、渉は心配そうにその顔を覗き込む。
「心配ごとか?」
「……千鶴くんのこと、考えてたの」
「……やっぱり、まだ駄目か?」
「うん……私、なにかしちゃったのかな。知らない内に、千鶴くんを、傷つけたのかも……」
千鶴は珠希を避けているようだった。原因があるわけではないはずなのに、ある日突然よそよそしくなって、そんなときに珠希が高校に入学してしまったため、千鶴との時間は極端になくなってしまった。
朝は始発で学校に向かい、帰りは生徒会の仕事の後だから家に着くのは9時過ぎだ。
珠希が帰る頃には、千鶴は部屋に行ってしまうので、言葉を交わす機会がない。
話が出来ればなにか変わるとは思うのだが……。
一年前の今日。この桜に迎えられた私のように、今年は私の弟がこの桜並木を通ってやってくる。
松永珠希はこの並木の向こうにある桜嵐高校の生徒会に在籍している。
桜嵐高校は、田舎であるこの長野の山中に建てられた、昔ながらの風情を残された半寮制の学園である。
「……千鶴くん」
珠希は目を見張るほどに美しい桜を眺めながら、弟の名前を呟く。
松永千鶴は珠希と年度を跨いで生まれた双子の弟だ。いつも一緒で、お互いがお互いを一番知っていた。千鶴は珠希の全てをわかってくれたし、珠希は千鶴の事ならよくわかった。
一年前のあの日までは……。
「珠希!」
背後から聞こえた優しい声。振り返れば息を切らせ走り寄ってくる人。
四条渉。昨年出来た珠希の彼氏だ。
「渉くん、おはよう」
「おはよう、珠希。今年も同じクラスだといいな」
「……そうね、そうだと嬉しいわ」
珠希の表情が浮かないのに気づいたか、渉は心配そうにその顔を覗き込む。
「心配ごとか?」
「……千鶴くんのこと、考えてたの」
「……やっぱり、まだ駄目か?」
「うん……私、なにかしちゃったのかな。知らない内に、千鶴くんを、傷つけたのかも……」
千鶴は珠希を避けているようだった。原因があるわけではないはずなのに、ある日突然よそよそしくなって、そんなときに珠希が高校に入学してしまったため、千鶴との時間は極端になくなってしまった。
朝は始発で学校に向かい、帰りは生徒会の仕事の後だから家に着くのは9時過ぎだ。
珠希が帰る頃には、千鶴は部屋に行ってしまうので、言葉を交わす機会がない。
話が出来ればなにか変わるとは思うのだが……。