咄嗟に振り払ってしまって、でもどうすることも出来なかった。
泣きそうに歪む珠希の顔を見ていられず、千鶴はうつ向いた。


「……千鶴くんだったね。ちょっと話をしないかい?」
「……渉くん、いいの。私は平気……」
「でも珠希、平気じゃない顔してる。千鶴くんも……」


二人のやり取りをみて思った。
この二人はお互いを想い合ってるって。
ちゃんと、姉は悲しいときにすがれる腕を見つけたのか。

家族以外のすがれるものを、珠希には作って欲しかった。それが、千鶴の望み。
家族だけが拠り所になってしまえば、それはとても脆く儚い拠り所になってしまう。

一度に両親を失ったふたりにとって、家族といえるのはお互いだけ。
だからこそ、作らなければいけない。
どちらか一人に訪れる消失という別れから立ち直れるように。




同時に死ぬことなど、できはしないのだから。