てくてくてくてく河沿いを歩いていると、前方から黒いスーツを着た30歳位の男が近付いてきた。
俺の前まで来ると黒男は、懐から取り出した手帳を
「私、こういうものですが」
と俺の目の前に突き付けた。
それは朱色の年金手帳であった。
(サラリーマンかい)
俺は思った。
「で、それが何か」
訳解らないので尋ねた。
すると黒男
「年金手帳、いりませんか。これがあれば退職後も安心ですよ。お安い価格でお譲りしますが」
なんて言う。
年金手帳を売るなんて、怪しい奴だ。
「自分、一冊持ってるんで大丈夫です。誰か他の持ってない人に譲ってあげて下さい」
丁重に断ると男は
「そうですか。残念です」
と去って行った。
さらに、てくてくてくてく歩いていると、今度は、12、3歳位の女の子が現れた。
その少女は、破れたチェックのシャツに、ツギハギだらけのスカートと言うような、みすぼらしい恰好をしていた。
腕に籠をぶら下げている。
「どうしたの?」
俺が笑顔を向けると、少女は籠の中から、イチジク浣腸を取り出した。
「おじさん、イチジク浣腸買ってちょうだい」
「いやあ、おじさんは、浣腸はしないなあ。痔じゃないし。悪いけどゴメンね」
俺が頭をかくと、少女は悲しげな表情になり、トボトボ歩いて去って行った。
(イチジク浣腸売りの少女ってかあ。もっとマシな物売ってくれよ)
さらに、てくてくてくてく歩いていると
「オイ」
声を掛けられた。
そちらを向くと、恐持て顔の男が、なんと俺にピストルを向け、突っ立っていた。
「な、なんのつもりだ」
びびってそう言うと
「これをどう思う?」
と問われた。
「こ、怖い」
と言うと
「そうじゃなく、この拳銃をどう思うかと聞いてるの」
訳解んなかったが、気を使い
「凄いと思う」
と答えた。
すると男は銃を降ろし、近付いてきた。
「凄いでしょう、いいでしょう。これ、スミス&ウェッソンね」
男は銃を俺に渡そうとしたが、俺は手を振り、断った。
男は次に持っていた、アタッシュケースを開いて見せた。
その中には、数丁の拳銃が収まっていた。