─一方その頃…
陽の光が当たらない暗黒の世界
樹木も河川も無いだだっ広い荒野
そこに一際目立つ切り立った岩山
頂上には無機質なレンガで造られた巨大な城がそびえ立っている
そこから聞こえる不気味な音は悪魔の叫びか鬼の唄か
魔王の城
そこに足を踏み入れた者は
生きて帰ることはできないという…
「きゃはははっ!まおちゃんよわ~い!」
「もお~!ねぇもう一回!もう一回だけやろう!ひめちゃん!」
「もうや~だ~、これでもう125回目だよ~!ね~む~い!」
「ねぇ~おねが~い!」
ぶっちゃけ魔王はヒマだった!
部下である悪魔や魔獣たちが全て慰安旅行に行ってしまったのだ
魔王は唯一の未成年だったので、参加できず
城に一人留守番する羽目になった
すっごいヒマだった!
なので姫を連れて来た、同い年の同性だったので良い遊び相手だった
そして今、キングっちやゆうやたちが大変だということは露知らず
ウイイレでものすごく盛り上がっていた
ひめとまおは意外とゲーム好きだった
「いや~にしてもまおちゃんちはなんでもあるね~!一生いても飽きないよ!」
「そうでしょ?PSPにDS、ドリキャス、64から初代ファミコン、Wiiにセガサタ。しかも携帯ゲームはみんなでできるように4機ずつ持ってるんだから!」
「ここまで行くともう商売ができるレベルだね…。しかも『戦場の絆』まであるし…どうやって手に入れたの?」
「生ける死神、Mk-Ⅱ使いのまお中将とは私のことだぜ~!いや~…ゆうやに付き合って色々やってたらこんなんなっちゃって…」
「そういえば、なんで勇者のゆうやと魔王のまおちゃんが幼なじみなの?意外すぎるんだけど…」
「ん~…最初は私も普通に、魔法使いか僧侶、ぐらいにはなろうかなとは思ってたんだけどね…」
「だけど?」
「ゆうやをいじってる内に段々気づいちゃったの、『あ、ゆうやをいじるのって楽しい』『私に跪くゆうや超快感!』って…。んで、私魔王の方が向いてるなぁ~って。」
「そんな軽い気持ちでなれるもんなの!?魔王って!
ってかそれって魔王って言うより、じょ…」
「おおっと!それ以上は禁句だよひめちゃん!」
「あ、そういえば。ゆうやがこっちに来てるらしいよ?」
「そなんだ?なんで?」
未だに自分の立場が分かっていないひめだった
「さぁ?遊びにじゃない?新しい友達もいるみたいだし…」
未だにひめの重要さが分かっていないまおだった
「そっか…どうやって帰ろうかと思ってたけど。ゆうやと一緒に帰ればいいや…」
「えぇ~!?ずぅっとここにいようよ~!んで遊ぼうよ~!」
「どさくさに紛れない!はいっ、寝るよ~!」
「うぅ~…じゃあ明日、明日起きたら遊ぶよ!」
「はいはい…じゃあお休み~」
スヤスヤ…
キングっちの心配とゆうやの(そこそこの)大変さを知らない二人は
真っ黒なゴシックなベットで無邪気に寝るのであった…
翌朝…
「あ、神が携帯新しくしたんだってさ。」
「おい、せん。朝の開口一番がそれか?」
「いいなぁ~、俺も替えたいなぁ…」
「ゆうやさん携帯持ってらしたんですね…。何を使ってるんですか?」
「ん?携帯じゃないよ?ポケベル。」
「ふるっ!てかまだ現役で使えんのかよそれ!?」
「え?せんもポケベルだよ?」
「あの…すいません…私もです…」
「……うっそぉ…!このご時世若者グループの75%がポケベル所有者かよ…」
「おぉ、じゃあせんとりよ。アドレス交換しようぜ。」
「うん。いいよ~」
「かしこまりました。」
ワイワイ…
「……あれ?なんで携帯所有者の俺が疎外感を感じるの?」
「さて、アド交換も終わったし。そろそろ行くか?昼前には隣町に着くだろうな。」
「レッツゴー!」
「……?けんさん?そんなとこでいじけてないで行きますよ?」
「え?あ、あぁ…。てかりよ、ちょっと最近言葉厳しくなってない?」
「そうですか?」
テクテク…
「せんはやっぱ、V2かな?あのバランスと換装性能はピカイチです!」
「バランスといえばZだろうよ!機動力もあるし、なによりカミーユ最高!」
「…なんの話をしてるんですか?」
「『最強のガンダムは?』だってさ。俺はよくワカンネ。」
「私も分からないです…。………っ!」
突如不穏な気配に気づくりよ、それより一瞬遅く、全員が反応する。
「5人…いや、6か…?」
「ううん。8人いるよ…。木の上に2人いる。」
冷静に状況を分析するせん、周囲の木々に隠れる敵意に対して、無言で円を作り身構える
「さっきはゆうやが活躍したからね。今度はせんがやるよ。」
「せんが?やれるのか?」
一人余裕の笑みを浮かべるゆうや、その気になれば一瞬で全員を消し炭にできるからこそ生まれる余裕である。
「せんだって、伊達に戦士じゃないんだよ。……来たっ!」
一斉に八つの影が飛び出した
全員揃ってターバンを巻き、目以外はほとんど白い布で隠れていた。
両手には中型のナイフを持ってはいたが、所々錆びたり欠けたりしていた。
「さぁ!いくよ~!」
腰に携えていた両刃の剣を引き抜く
木漏れ日に反射し、銀色の刃が煌めく
飛び上がったせんが敵と交差する
キンッという乾いた金属音が何度も響き
敵はゆうやたちの目の前
せんは敵の背後に着地した
同時に
8人全員白目になり前のめりに倒れた
口から泡を吹き
微弱に悶えていた
「はい、終わったぁ終わったぁ~!」
剣を鞘に納め締まった表情だった顔が急に緩くなった。
「おぉ~!やるじゃんせん!全員みねうちか~。」
「えへへ~、せんだって、やる時はやるんだよぉ~。」
「ただもうちょっと笑い成分欲しかったな。お前も神も本気じゃん。」
「たまには真面目なとこも見せないと!」
ヒソヒソ…
「明らかにせん、すごいよな…」
ヒソヒソ…
「確か一緒にゆうやさんのハイスペックに文句言ってましたよね…?」
「にしてもどこのやつらだ?こいつら?」
パサッ…
「右頬に二本の切り傷…『蜃気楼』の方々ですね…」
「しんきろ~?」
『蜃気楼』
世界最大の盗賊集団
金品のみ奪う、食料は買うがモットーである
全員右頬に二本の切り傷をつけるのが入団条件
「全国に散らばってるから首都防衛軍『十六夜(いざよい)』も収拾つかねぇんだと…」
「………うちの国、王様がいるのに首都でもなんでもないの!?」
「そうですよ?隣町に行くのに山5つも越えるぐらいですから…」
「そんなド田舎にいる王様って、王様って言えるの…?」
「だからあの程度の軍資金しか渡してくれなかったんじゃないですか?」
…あ~、なるほど!
(全員納得)
「しかし蜃気楼か…、これで目つけられなきゃいいが…」
「そんなに厄介かなぁ?せん一人でも余裕だったよ~?」
「倒すのは余裕でも何回も向かって来られたらイヤだろ?それに蜃気楼には、俺より強いやつはたくさんいるんだぞ?」
「でも…蜃気楼はこの頬の傷がシンボルマークなのに、なぜそれを隠していたんでしょうか…?」
「言われりゃそうだな…。もしかしたら、こいつらには何か裏があるかもな…。」
「まぁ、こいつら起こして聞くわけにもいかないし。早く行こうぜ。」
8人の気絶体をそのままにし、ゆうやたちは先を目指す。
「あの方たちなら…もしかしたら…」
木陰に隠れた一人の女性は、ゆうやたちに気づかれることなく、その場を去って行った