俺の言葉に対して、少女は日だまりのような表情を俺へと向けた。

「天狗様はお優しいのですね」

……ハイ?

「お会いできたのがあなた様のような天狗様でよろしゅうございました」

俺の思考が一瞬、真冬の瀑布の如くに凍りつく音を立てた。

それはパキンとかピキンとか、そう言った硬質な擬音語でもって表現されるような音であり、ガラスや陶器といった精細な何かに罅の入る音にも似ていた。


何だ。
何だ。
何なのだ!?
この娘は恐怖と畏怖の象徴であるべき大天狗の俺を捕まえて何を言っている?

というかそもそも、こんな山奥で男どころか化け物と二人きり。
いくら人智を超越した類い希なる美貌を誇り、容姿に絶大なる自信を持つこの俺(三回目)と一緒にいるのだとしても、普通はもっと警戒するなり怯えるなりして見せるのが化け物に対する礼儀というものであろう。

それを無防備にも、男心をどきどきさせるような表情と、初対面の相手を誘惑しているかのような美辞麗句とを用いて籠絡せしめようとは。

危機感が皆無に過ぎようというもの。

実にけしからんと俺は大いに憤慨した。


しかし俺は天狗であるので、……


無垢なる眩しい笑顔でガラスや陶器の如き繊細な心の臓を撃ち抜かれ、幸せを知らぬのならばいっそ俺が幸せにしてやろうかなどと甘い囁きで返答したくなるセリフを投げつけられたとしても、


……どきどきしたりもしないし、誘惑されたりもしない。

そう、断じて。

「俺は客観的に物を言っているだけだ」

と、冷静な言葉と態度とでもって応じてやるのみである。