「では仮にこの俺が天狗だと言えば、そんな奇ッ怪は信じるのか」

そちらのほうが受け入れがたい怪異なのではあるまいかと思う。

「信じます」

やはり見た目どおり世間知らずで人の言うことならば何でも素直に信じてくれる娘なのかもしれなかった。
ただし俺にとってはひたすら都合の悪い方向性で。

「天狗なのですね?」

小動物的なかわいらしい動作で小首を傾げ、娘は真剣な眼差しで俺を見つめて言った。

「天狗なのでしょう?」

つぶらな瞳には期待の光がありありと灯り、すがりつくような必死さすら滲んでいた。

俺は嘆息し、己の不注意を呪い、一瞬、時が巻き戻って遭遇の瞬間からやり直せないだろうかと非現実的な願望を空想し、

諦めた。


「いかにも、ぬしの言うとおり」


認めよう。
認めてやろう。


「俺は天狗だ」


投げやりに正体を暴露した俺に、娘はひととき目を見張り、すぐさま興奮した様子でその頬に朱を上らせて、

「お探ししておりました」

と、化け物の俺にとって信じがたい奇ッ怪なセリフを口走ったのであった。