世界を渡る四の天災

「とりあえず見た目を何とかするか。…とう!」

 明神の前に現れたのは黒の鎧、黒と赤、銀の剣。足には短剣を収納するホルダー。黒く光を浴びて煌めく鎧、兜、籠手、etc.五分後には全身が黒く煌めく真・明神(今命名)が存在していた。
「やっべ…格好良すぎだろ俺…!」

 フルフルと震えながら剣(命名:ヨミオクリ)を握る。四々綺の風の魔術を生かして、自身と剣に風の衣を纏う。軽量化、スピードアップ。今や俺の速さは疾風の如し。やる事は決まった。この国を救う。とりあえず目に見える城下町の血肉の臭いのする黒い狼?みたいなヤツを全部斬り殺していった。途中俺に似た黒と赤の鎧を付けた奴が狼モドキを操っていたのを見つけたから、黒と赤の鎧を付けた奴も一瞬で斬り伏せる。人を殺すのは前の世界でも慣れている。躊躇はしなかった。



「退けぇぇぇえ!」
「く、来るなァァァァァ!」



 途中、俺の存在に気付いた奴らが俺の事を「ハウンド」と呼称している事に気付いた。そんな格好良い名前で俺を呼ぶなんて…分かっているじゃないか。



「黒凪!」

 道中必殺技も幾つか生み出した。ヤバい。親父殿の言ってた通り、俺は千年前に生まれていた方が良かったのかもしれない。
 十分位走り回っていただろうか。城下町は閑散とし、白と青と金の鎧、銀の鎧を装備した男達がチラホラ見えるようになった。城のてっぺんの旗と同じ模様が鎧等に見られた為、コイツ等はこの国の騎士兵士なのだと理解する。

「おいお前。敵の本隊はどこだ。」
「き、貴様!帝国の者か!?」
「誤解するな。俺はお前達に剣を向けるつもりはない。帝国に牙を向ける者だ。」

 偶然にも敵の名を知った俺は自然な流れで問答する。天才たる俺だからこそ出来る行動だ。
 兵士は俺に剣を向けたまま、東の平原に敵の大部隊が待ち構えている事を喋った。俺は一礼して東に走った。さっきからニヤニヤが止まらない。10年以上日の光を浴びなかった魔力が鳴動している。その唸りを上げている。大気を裂いて今か今かと涎を垂らしている。



「東、東…コッチか!」

 視力強化によって敵の本隊と思しき大部隊を補足した。
 記念すべき初陣だ、力は見せ付けた方が一番良い…!

「ヨミオクリ壱式…斬世《キリヨ》!」
 
 前の世界で使われる事の無かった魔力の、切れ端のような部分を起動させる。ヨミオクリは俺の魔力に呼応して、刃を白く輝く聖剣へと姿を変える。敵の本隊は俺に気付いて居ないのだろう。視力強化をした俺から見ても、何一つアクションを起こさない。



「斬世の狭間に呑まれるが良いッッ!!」


 不意打ち上等。レッツ闇討ち。俺の斬世は空間を裂き、斬世が生み出した次元の狭間へ敵を叩き落とす技だ。回避不能、防御不能。一切の行動は無意味。ラスボスだって即死する。



 気付けば平原の敵軍は一騎残らず消滅していた。思い返せば敵の中には炎弾を撃って来た奴も居た。コレは素晴らしい。言わばこの世界、黒い狼がモンスターならば魔法とモンスター、敵国まで存在する超絶RPG。魔術、魔法による戦争を経験していた俺も、モンスターと戦った事は無い。高ぶる気持ちを抑え、冷静になる。さて、この後はライトノベルとかゲームとかなら王様の下に行って…ってなるんだろうけど。生憎俺は天才だ。そんなお決まり且つイージーな未来は好まない。



「とりあえず女になるか…別人格も幾つか作ろう。力とか特徴とかはそれぞれ用意して…。」





 四々綺 明神。否、今日から彼は死々斬 覇全(シシギ ハゼン)と名を変えた。自らの名、体を全く別の人格、全く別の存在の四人に預けて…。










「ど、何処だ、確かこの辺に…」
「居たぞ、ブラック・ハウンドだ!」

 銀の鎧で身を覆う兵士達が黒く煌めく鎧を纏った男に近づいて行く。男は倒れたままその場を動かない。鬼神の如き力を放ったあの黒い剣も、今や何処か弱々しく日の光を反射するのみ。

「油断するな、その男は万の帝国軍勢力を一人で薙払った男だぞ…!」


 兵団長と思われる男が兵士の二人に命令する。兜を剥げ、と。
 兵士二人は冷や汗を垂らしながら男の兜を剥ぎ取り―――絶句した。

 弱々しく息をし、頬を僅かに紅潮させ、黒く綺麗に伸びた髪は彼の鎧の様に煌めいている。そしてその顔立ちは神が直接手を入れたのではないかと思わせる程美しく整っていた。…整って…男…?


 兵士二人の汗は止まる事を知らない。寧ろその勢いを増しているかのように思えた。
 
「…おい。」
「…あぁ…。」

 失礼、と鎧の胸部装甲も剥ぎ取って、今度こそ二人は顔を蒼白くさせた。

 胸は丸くふっくらと膨らんで、衣類の上からでもその形が確認出来る。そして悟る。コレは女の子だと。だがしかし、気を失った美少女を前にしても兵士二人は気をしっかりと保っている。そして二人は時間をかけてゆっくりと立ち上がり、後ろに控える兵士団長に顔を向けた。その鬼気迫る部下の迫力に気圧される士団長。



「団長殿…。」
「な、何だ…?」
「我々、後で首が飛ぶかも知れません…。」



 女に剣を取らせるな。アルスアインドの兵、騎士達の掲げる最も重要視される掟である。騎士団長にこの事が知られれば打ち首は必至であった。同じように顔を真っ青にさせた士団長と兵士達は至急、且つ丁重に彼女を城へと運ぶのだった…手に汗を握りながら。





 城内。
 戦闘後の復旧作業や怪我人の治療、王妃や王子、王女は目に涙を浮かべながらアルスアインド王と再会した。何故かシルフィーヌを連れて行った兵も声を上げて泣いている。何か思う事があったのだろう。



 救世主…ブラック・ハウンドの噂は城内の兵士と騎士、王族の者全員が知る事になった。ただ一つの事実だけは知らなかったが。

「ブラック・ハウンド…彼は一体何者なのか…話に聞くには一級魔術師すら遥かに凌駕する力の持ち主だとか…。」
「私(ワタクシ)は騎士団長すら目を見張る剣技の使い手と聞き及びました。…さぞ高名なお方なのでしょう。」
「父上、僕はその人に早く会いたいです!」
「パパ、黒い人ってカッコいいのかなぁ?」



 ブラック・ハウンドの素顔を知らない彼等…兵士、騎士達は全員絶句する事になるのだが、それはまた少し後の事である。
 
◆2...初めての景色
 暗い 黒い 空間。
 私は何が何だか分からなかった…私自身が誰なのかも分からなかった。唯一自分に関する記憶で与えられたのは「四々綺 止華(シシキ トドカ)という名前だけ。
 知識は持っている。だけど記憶は一切無い。前に立っている影のような真っ黒けの人に話しかけても、「お前は一人じゃない」という返事が返ってくるのみ。
 私は徐々に広がる光に呑まれるようにして、その空間から消え去って行った――。



「ッ…う…」
 目を開けると、白い壁、天井が私を包み込むようにして広がっている。鎧姿なのも、自分の知識が語っている。コレは私が作り出した魔装、「天(アマツ)」…ベッドの横に立てかけられた剣は闇と聖の属性を付加した両極魔剣、「ヨミオクリ」…。…私は一体コレをどうやって作―――

「―ぁぐぅッ…!?」

 頭が痛い。まるで思い出すのを拒んでいるように…。

「…ハぁッ…ハぁッ……」

 一瞬だけ激しい痛みが止華の頭を襲ったが、痛みは案外直ぐに引いた。…とりあえず、私がする事は此処が何処なのか知る事だろう。ベッドから立ち上がり、兜を被り帯剣する。木製の戸を開け、廊下らしき通路に出るが…人一人の姿も無い。そして廊下に10m間隔で設置されている窓から景色を眺めてみた。

 …城門、平原、城下町。所々が破損している景色、それは人々の手によって元に戻されようとしていた。―――知識が語る。アレは“敵”が壊したのだと。
「…とりあえず、出てみよう。」

 危険は無いだろうと知識から情報を引き出し、私は服(魔法で創った。便利だと思う)に着替え、下の階へと降りる事にした。

 数分後、彼女の居た部屋を必死で捜索する兵士団長の姿を城の人間が目撃していた。





 アルスアインド。
 国旗の下にはそう書かれている。文字は理解出来るようだ。見張り一つ無い扉を不可思議に思いながら、止華は外に出た。

 眩い日の光が目を刺す。黒いワンピースを着た事で全身真っ黒になった止華だが、街の人間を改めて見ると青い髪や緑の髪の人間が大半。少なくとも黒い髪の人間は一人たりとも居なかった。
 大丈夫かな?等と思いながら、私は近くにいた女性に声をかけた。見れば煉瓦を積む作業をしているようだが、彼女の腕はプルプルと震え、足は今にも崩れそうな程危なっかしい。

「あのー…」
「!!?」
「あっ!危――」

 声が出るより先に体が動いていた。煉瓦と女性を軽量化、女性を素早く抱きかかえ、煉瓦はプカプカとその場に浮いている。

「だ、大丈夫ですか?」
「え、ええ―――ありがとう。」

 止華は自然に動いた自分の体に微かな違和感を覚えたが、直ぐに頭の中を切り替える。女性は止華の顔を見て顔を赤らめたり青くしたりしている。…私の顔に何か付いているかな?

「「あの―――」」

 …。

「「あ、其方から―――」」

 二度も台詞が被ってしまい思わずポカンとしてしまった。苦笑しながらも気を取り直して彼女の方に向き直る。


「あの…宜しければ手伝いましょうか?」
 女性はもう体力の限界、そう悟った止華は彼女の力になれないか、と思い訪ねる事にした。

 彼女は一瞬だけ悩む素振りをしたが、首を横に振った。
「いえ、結構です。それよりも、その…貴方は、帝国の方ですか…?」



 Q1:敵が掲げるシンボルカラーを全身に纏った少女は一般市民にどう映る?
 A:敵
 B:敵国の人間
 c:スパイ

 迂闊だった。そう言えば敵は黒と赤の旗を掲げていた筈だと知識が告げる。止華は苦笑しながら否定の意を告げると、彼女もそれ以上は深く聞き入って来なかった。良い人だ。


 本当は復興作業を手伝いたかったのだけれど、街中の皆があの女性のような反応をして一様に首を縦に振ってくれなかった。
「うぅ…やっぱ私信用無いのかなぁ……」

 ちょっと軽く凹んでいたその時、「ブラック・ハウンドさーん!」と叫ぶ声が聞こえた。誰だろう、ブラック・ハウンドって。でもブラックって付いてる辺り私っぽいなぁ…何て考えていると、どうやら本当に私の事だったらしい。私の姿を見るや否や、一瞬顔が引きつった兵士さんが私の所まで来た。
 何かお城で王様が待ってるんだって。鎧姿で面会しろって言われた。うぅ…アレ暑苦しいのにぃ…。

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