「…な、なんでもない」
カアァァァと顔が熱くなっていくのがわかる。

「で、南美 咲月(ミナミ サツキ)さん?」
ビクッ
ただ名前を呼ばれただけなのに変に反応しちゃう自分がいた。

クククッ
っと竹井くんが笑いを押し殺していた。
「何驚いてんの?」
私は自分が情けなくなって顔を真っ赤にしながら俯いた。

「…まっ。そんな事はどーだっていいや」
…どーでも…いい?

昔の記憶が蘇っていく。
今でも鮮明に覚えてる、一生思い出したくない嫌な記憶。

「………いよ…」
「…えっ?」
竹井くんが聞き返してくる。
「……どーでもよくなんか…ないよ…」
「はっ?…!?」
竹井くんが驚いてる。
「お、おい?どーしたんだよ?なんで泣いて…」
……泣く?
私が…?
そんなわけ…
!?
自分でもビックリした。
私は瞳を潤ませてる。
だけじゃない…
涙を流してる。
…どうりで視界が歪んでるはずだよ。
私…泣いてたんだ…。
「……なんでもな」
「なんでもないわけねぇだろっ!」
竹井くんは私の言葉を遮って言った。
ビクッ
私の肩は大きく揺れた。
だって初めてなんだもん…。
竹井くんがこんな真剣になって怒ってるなんて…。
私は、昔の記憶のせいなのか竹井くんの声に恐怖したのかはわからないけど、ポロポロと涙が止まらなかった。

「……悪い」
優しいけど申し訳なさそうな声で言った竹井くん。

え…?
なんで竹井くんが謝るの?
と不思議に思い顔を上げた。
どきっ
竹井くんはその綺麗な茶色い瞳で私を見つめていた。
…でも何処か悲しそうな瞳。