「杏子の事ばっかり煽ってないで、まどかはどうなの?海で、フェニックスのメンバーと連絡先交換したんでしょ」

千晶に話題を自分に振られ、まどかは先ほどまでの不満顔とは打って変わって、顔を綻ばせた。
基本的にまどかは自分の話をするのが好きなのはあたしも千晶も知っている。
話したい分だけ話させておけば、機嫌も直るだろうと千晶は思ったのだろう。
…それよりも、まどかがフェニックスのメンバーと連絡先を交換していたとは驚きだった。
シチュエーションは違えど、あたしが約二年かけてやって成し遂げた事を、たった一日でやってのけてしまうとは。二人の対人能力と行動力の差に、改めて愕然としてしまう。

「うん、まぁしたよ?けどね〜ダメだね。あれは。海くんなんかモロ遊び人って感じだもん。慎くんも彼女はいないって言ってたけど、なんかアイツ癖があって難しそう」

まどかは吐き捨てる様に言って、眉をひそめた。

「あの中じゃ、琉斗くんが一番性格いいかもね。見た目は猿っぽくて、あたしはタイプじゃなかったけど。まぁ聡美さんがいるしね」

まどかの言葉に、あたしの頭の中に聡美さんの姿が浮かんだ。
海に行った日、あたしにも何度か話し掛けてくれた。
会話の内容も、あくまで世間話の範疇を出ない無難なものであったが、年齢の割に落ち着いているし、さりげなく気遣いが出来る優しい性格だと思った。
まどかは付き合いが長いので例外だが、同世代のキャピキャピした雰囲気が合わず、友達を作るのが苦手なあたしが仲良くなりたい、と聡美さんには思えた。
今、彼女はどうしているんだろう?
次回以降のライブでも、受付などを担当していたらまた会えると思うが、あの時連絡先を交換しておけば良かったと少し後悔していた。

「それよりも、実はね、あたしも杏子と明くんにあやかって、新しい彼氏が出来たんだぁ〜」

そう宣言すると、まどかは満面の笑みを見せた。
こんな場面は、これまでにも数えるのが億劫になるぐらい繰り返されている。

「本当?良かったじゃん」

「前に言ってた、サークルで知り合った国立大の人?」

千晶とあたしが反応すると、更に気を良くしたのか、まどかのマシンガントークが始まった。

「うん、まぁそんなとこ。メールは毎日してたけど、向こうも授業とかバイトで忙しくて、なかなか二人で会う機会がなかったの。
お互いなんとなく会おうとか言う話にもならないし、もしかしてこのままフェードアウトになるかも、とか考えてちょっと彼、航平くんって言うんだけど、試してみたのね。友達とその彼氏と何人かで海に行くんだって。友達の彼氏の男友達も来るって言ったの。友達の彼氏って超イケメンだから、その友達も期待出来るかもって−」