それからあたし達は、昼食がまだだったので、フェニックスのメンバーから、おでんやら焼きそばやらフランクフルトやらを買ってもらって食べた。
それらは学校祭の屋台で出されるものとさして変わらない、なんてことない味なのに、この海を眺めながら食べると妙に美味しく感じる。

それにしても、いくらこの海水浴場の駐車場代がタダとは言っても、当然ガソリン代はかかる。それにお酒やちょっとしたつまみやお菓子まで買い込み、おまけにあたし達に食事まで奢ってしまっては、皆さんかなりお金を遣っているんじゃないかと心配した。

それからは交代で海に入ったり、ビニールシートの上で寝そべったりしながら過ごしていた。
まどかや千晶は、フェニックスのメンバーや聡美さんとビーチバレーを楽しんでいる。
あたしはと言うと、皆の輪から離れて、慎が立ててくれたビーチパラソルの下に体育座りをしていた。
上半身に、持参してきたバスタオルを巻き付けて。

泳ぎはあまり得意ではなく、小学生の時に近所のスイミングスクールに瞬介と通ったのに、全く上達せず辞めてしまい、犬かきの様なものしか出来ない。
おまけに自慢じゃないが色白な為、日光に長時間晒されてると肌が赤くなって痛くなるので、日焼けはしたくないのだ。
一応、出かける前に全身くまなく念入りに日焼け止めを塗ってはいたのだが。
要するに、あたしは若者らしく海を楽しめない性分なのだ。

「杏子」

ビーチバレーから一時離脱したのか、明があたしの近くに来てくれた。
あたしは球技が大の苦手なので、もし交ざっていたらまともなパスやレシーブが一切出来ず、自己紹介をした時以上に場は気まずいものになっていたに違いない。

「やっぱやらねぇ?ビーチバレー」

明があたしの顔を除き込んだ。少し前にも千晶から「杏子もやろうよ」と誘われたのだが、ここから両手を合わせゴメンネのポーズをして断ったのだ。

「うん…。バレーとか苦手だし」

「ビーチバレーなんて、普通のバレーよりずっと簡単だって」

「それに…あんまり日焼けすると肌痛くなるし。ホントごめんね」

明は困った顔をして、あたしを見ている。以前、彼はあたしを彼女として皆に自慢したいと言っていた。
なのにこんな有り様では、自慢どころか連れて来なければ良かった、と思っているんじゃないだろうか。

「そっか。じゃあ、俺ら二人だけであっちに行かね?」


明が指差した先は、今いる砂浜より少し離れた岬の麓にある岩場だった。
正直、あまり乗り気ではなかったが、特に体を動かす訳ではないし、明と二人きりだけならいいだろうと思い了承した。