「昨日、お隣の田中さんの奥さんに言われたわよ。
『新庄さん家の杏子ちゃん、独特なファッションセンスをしてるわね〜』って」

お茶を煎れているママが露骨に眉をしかめて言う。
毎朝毎朝恒例の嫌味。
あまりに懲りもせず言うので、もう何も感じなくなったし、むしろこれを聞かなきゃ1日が始まらない、とさえ思うようになった。

「何度も何度も言ってるだろ。ちんどん屋みたいだからやめろって」

今は新聞を読んでいるパパが、あたしの方に目もくれず言った。
所謂“古き良き時代”の人間で、頭がガチガチに凝り固まっているパパとママには、あたしの服装のセンスや好みが理解出来ないのだ。

「いいじゃん、今は個性の時代だよ。若いうちしか出来ない格好だってあるんだよ。
じゃ、行ってきまーす」

味噌汁を飲み干した瞬介が、スポーツバッグを手に取り勢い良く立ち上がる。

「もう行くの?お茶が入ったのに!」

「今日は朝練あるんだよ」

早々と玄関に向かう瞬介を見送ろうと、ママが後に続く。

「いってらっしゃーい。気をつけてねー」

瞬介が学校に行くと、居間に戻ってきたママが無表情であたしに言った。

「片付かないから、早く食べてよね。
お母さんだって、今日はパートあるんだから」

「……はい」

あたしは小さい声で返事をすると、朝食を取り始めた。
隣ではパパが、相変わらず新聞を読んでいたままだった。
瞬介が登校してしまうと、家の雰囲気が一気に気まずくなるのも、もはや慣れっこだった。
そうこうしているうちに、今度はパパが出社する時刻となり、パパは小さな声で「…行ってくる」と言って家を出た。

ママは、瞬介の時みたいに玄関まで行き見送る事はせず、自分も遅い朝食を取り、テレビでやっている星座占いをぼんやりと観ながら「えぇ」と答えただけだった。