それからややしばらくして、やっと目的地の海水浴場に辿り着いた。今の時刻は午後12時20分。
辺りを見回すと、海の家が十数件ずらりと並んで建っている。
駐車場は砂浜のすぐ近くにあり、思ったより駐車スペースがかなり広い。
それでも夏真っ盛りであるこの時期は、たくさんの台数の車が停まっていた。
明も空いている箇所に車を停め、あたし達は外に出た。これまで長い時間、運転してくれた明に、あたし達は「ありがとう」「お疲れ様」とお礼と労いの言葉を掛けた。
明も2時間以上も車を運転していたのだから、きっと疲れただろう。

「俺、電話するからさ。みんな着替えてきたら?」と明が言い、あたし達三人は近くにあった個室型の簡易シャワー室で着替えをする事にした。
着替える、と言っても既に私服の下に水着を付けているので、あまり手間はかからないのだが。

「杏子と明くんって、マジでラブラブじゃ〜ん」

シャワー室に向かいながら、まどかが心底楽しそうな笑顔を浮かべて、肘であたしの肩をつつく。
はぁ、これまた反応に困ってしまう。

「そうかな…?」

「そうでしょ〜。だって、明くんがデビューしたら、一緒に東京行って彼を支えるんでしょ〜。マジ健気〜。明くんの言ってた、守りたい存在って杏子の事じゃん」

「う〜ん…。ただ、あたしが明と離れたくないって言うのもあるけど…」

「バンドマンは遊び人が多いって聞いてたから、ちょっと心配してたけど、明くんなら安心だね。ホント杏子にマジ惚れって感じだもん。ねっ千晶?」

まどかに話を振られて、千晶はこちらの方を向かず、口元だけ微かに笑みを浮かべた。

「うん…。そうだね。それよりも、他の人達待ってるんじゃない?早く着替えようよ」

と話を切り替えると、千晶はシャワー室の方を軽く指差す。
やはり千晶は不機嫌な様子だ。
そしてあたし達は各々個室に入って素早く着替え終わると、近くで携帯電話を見て待ってくれていた明のところに行った。
水着になったあたし達の姿を見るなり、明はピュゥと口笛を吹いた。

「マジ、三人共超可愛い…」

そう言う明も、肩にさっきまで着ていたアロハシャツを羽織ってはいるが、上半身は裸であり、下は膝丈ぐらいの長さの黒い海水パンツだった。
異性の、しかも好きな人の裸なんて見るのは初めてで、あたしはなんだか気恥ずかしく、頭がくらくらした。

「三人共って、なんかすごいリップサービス的な感じ〜。正直に、杏子の水着姿が可愛いって言いなよぉ」

まどかがそう言って口を尖らせるも、明は「いや、まぁそうなんだけどさ、三人共可愛いのはホントだから」と弁解する。

まどかの着ている水着は、人気水着メーカーの最新作のビキニだ。ピンクとブルーの配色が鮮やかなペイズリー柄で、彼女の雰囲気によく似合っていて、一層大人っぽくさせていた。
千晶は、黒地に小さめの白いドット柄のシンプルなデザインのビキニだ。
やはり千晶はスタイルが良いとつくづく思った。
痩せてはいるが、ずっとスポーツをしていたからか不健康なイメージは一切なく、程よく筋肉がついている。長い足とくびれたウエストが、惜しみもなくされされている。
真っ直ぐに伸びた綺麗な鎖骨が窪みを作り、流れる汗がそこに溜まっているのがわかった。

一方のあたしはと言うと、二人と同様ビキニなのだが、はっきり言って似合っているなんて自信は微塵もない。
こんな事になるのなら、もっと早くダイエットするべきだった、と後悔もしていた。
買った水着も、デザインや色ではなく、給料日前で財布が寂しく、値段で選んでしまった。
白地にハイビスカス模様が入ったもので、ショーツにもフリルがついているので、お尻回りをカバー出来るのも、購入の決め手になった。やはりショーツ1枚で人前に出るのは恥ずかしい。

「あ、それでさ、他の奴らもう来ててあっちにいるって。行こう」

と明は言い、あたし達はあまり人気のない岬の近くまで足を運ぶ事になった。
まどかが「あたし達は後に続くから、明くんと歩きなよぉ」と言ってくれ、あたしは明と並んで歩く。
明は小声で「水着、よく似合ってる」と囁くとあたしの手を握ってくれた。