そうしてライブ当日。
今日のフェニックスのライブは、ライブハウス【ブルーキャッツ】で行われる。
ここは最寄りのJR駅から徒歩15分ほどの距離にある、閑静な住宅街の一部に溶け込んでいて、最初はなかなか場所を見つけられなかった。
【ブルーキャッツ】は元々は自家製焙煎が売りの喫茶店だったが、音楽好きのオーナーが店の老朽化に伴って改築する際に、地下にライブスペースも併設したのが三年前。
それからは定期的にライブ開催希望のバンドやアーティストに格安で場を提供しているらしい。
【ブルーキャッツ】のホームページを閲覧した際、オーナーの顔写真も見つけたが長い髭が特徴の初老の渋い男性だった。
写真では、黒い皮ジャンに皮パンツを着こなし、サングラスを掛けて大型バイクにまたがっていた。
ホームページには「ライブスペースレンタル希望のお客様、音楽のジャンルは問いません。この老いぼれジジイに、まだまだたくたんの音楽があるという事を教えてください」とも書いてあった。
失礼ながらそのお歳でも新しいもの・知らないものでも、いいものならなんでも取り入れて吸収しようとする、何とも気持ちの若々しさを感じた。あたしもこんな風に年を取っていきたいなぁ、と少し思った。
あたしは迷いながらも、【ブルーキャッツ】にたどり着いた。
あたしは明にチケットを予約してもらっていたので、受付に立っていた女の子に名前を言って代金を払い、チケットをもらう。
この彼女に、なんだか見覚えがあった。
小柄で色白、さらさらとした栗色のロングヘアー。
目鼻立ちがはっきりとした、人形の様な顔をしている可愛らしい女の子だ。
前回の【MARS】の時も、彼女がフェニックスの物販の売り子をしていたのを思い出した。
ちなみに物販とは物品販売の略で、インディーズバンドの場合はライブホールの脇なんかで自主制作CD、缶バッチやタオルなどを売っている。
こんなどうってことない商品でも、タオル1枚2000円ととんでもない値段だ。
しかし、インディーズバンドは何かと金がかかり、運営も赤字がほとんどだ。
音楽活動にするにあたって、物販の売り上げはバンドの大事な収入の一部。
あたしもお布施だと思い、今までにフェニックスの自主制作CD四枚と、なんてことない白タオルに【phoenix】とロゴが入った特製タオルを購入した。
そのタオルは、今は自宅の洗面所の手洗い用になっているが。
この【ブルーキャッツ】のライブホールは、収容人数が80人前後と、ハコにしたら小さい方だが、その分間近で演奏している彼らが見られる。
それに、今日は記念すべきフェニックスの初のワンマンライブだ。それが出来る様になったと言う事は、彼らが人気・実力を確実につけている証拠だ。
あたしは嬉しかった。
ライブホールに入ると、既に満員に近い人数の観客で埋め尽くされていた。
喫茶店と併設になっているライブハウスと聞いて、あたしはもしかして座ってコーヒーでも飲みながら優雅にライブを楽しめるのかと少し期待したが、甘かった。
地下のライブホールは地上の喫茶店とは完全に切り離されており、他のライブハウス同様立ち見形式だ。
まぁ、そもそもフェニックスはそんな事が出来るバンドではないが。
そしてあたしは、そこにいる観客の、言わばフェニックスのファンである、何人かの女性の、鋭い視線を感じた。
やはりみんな、あの掲示板を見ているんだろうか?
あたしは別に悪い事はしていない。明とはただの友達で、付き合っているなんて噂は事実無根だ。
そう思って気持ちを強く持ち、堂々としていた。
ハッとまた視線を感じ、あたしは振り返る。
そこに、もちろんいた。
絶対に来ているだろうと思っていた。
雛妃だ。
ホールの最前列とは逆側の壁際にもたれる様にして立っていた。
両隣には、取り巻きらしきあの二人−あの掲示板によれば痩せぎすの方をアユミ、小太りの方をリナと言うらしい。これまた雛妃同様、本名かどうかはわからないが−も従えて。
雛妃は、腕組みをして不敵な笑みを微かに浮かべて、あたしを見ていた。
今日のフェニックスのライブは、ライブハウス【ブルーキャッツ】で行われる。
ここは最寄りのJR駅から徒歩15分ほどの距離にある、閑静な住宅街の一部に溶け込んでいて、最初はなかなか場所を見つけられなかった。
【ブルーキャッツ】は元々は自家製焙煎が売りの喫茶店だったが、音楽好きのオーナーが店の老朽化に伴って改築する際に、地下にライブスペースも併設したのが三年前。
それからは定期的にライブ開催希望のバンドやアーティストに格安で場を提供しているらしい。
【ブルーキャッツ】のホームページを閲覧した際、オーナーの顔写真も見つけたが長い髭が特徴の初老の渋い男性だった。
写真では、黒い皮ジャンに皮パンツを着こなし、サングラスを掛けて大型バイクにまたがっていた。
ホームページには「ライブスペースレンタル希望のお客様、音楽のジャンルは問いません。この老いぼれジジイに、まだまだたくたんの音楽があるという事を教えてください」とも書いてあった。
失礼ながらそのお歳でも新しいもの・知らないものでも、いいものならなんでも取り入れて吸収しようとする、何とも気持ちの若々しさを感じた。あたしもこんな風に年を取っていきたいなぁ、と少し思った。
あたしは迷いながらも、【ブルーキャッツ】にたどり着いた。
あたしは明にチケットを予約してもらっていたので、受付に立っていた女の子に名前を言って代金を払い、チケットをもらう。
この彼女に、なんだか見覚えがあった。
小柄で色白、さらさらとした栗色のロングヘアー。
目鼻立ちがはっきりとした、人形の様な顔をしている可愛らしい女の子だ。
前回の【MARS】の時も、彼女がフェニックスの物販の売り子をしていたのを思い出した。
ちなみに物販とは物品販売の略で、インディーズバンドの場合はライブホールの脇なんかで自主制作CD、缶バッチやタオルなどを売っている。
こんなどうってことない商品でも、タオル1枚2000円ととんでもない値段だ。
しかし、インディーズバンドは何かと金がかかり、運営も赤字がほとんどだ。
音楽活動にするにあたって、物販の売り上げはバンドの大事な収入の一部。
あたしもお布施だと思い、今までにフェニックスの自主制作CD四枚と、なんてことない白タオルに【phoenix】とロゴが入った特製タオルを購入した。
そのタオルは、今は自宅の洗面所の手洗い用になっているが。
この【ブルーキャッツ】のライブホールは、収容人数が80人前後と、ハコにしたら小さい方だが、その分間近で演奏している彼らが見られる。
それに、今日は記念すべきフェニックスの初のワンマンライブだ。それが出来る様になったと言う事は、彼らが人気・実力を確実につけている証拠だ。
あたしは嬉しかった。
ライブホールに入ると、既に満員に近い人数の観客で埋め尽くされていた。
喫茶店と併設になっているライブハウスと聞いて、あたしはもしかして座ってコーヒーでも飲みながら優雅にライブを楽しめるのかと少し期待したが、甘かった。
地下のライブホールは地上の喫茶店とは完全に切り離されており、他のライブハウス同様立ち見形式だ。
まぁ、そもそもフェニックスはそんな事が出来るバンドではないが。
そしてあたしは、そこにいる観客の、言わばフェニックスのファンである、何人かの女性の、鋭い視線を感じた。
やはりみんな、あの掲示板を見ているんだろうか?
あたしは別に悪い事はしていない。明とはただの友達で、付き合っているなんて噂は事実無根だ。
そう思って気持ちを強く持ち、堂々としていた。
ハッとまた視線を感じ、あたしは振り返る。
そこに、もちろんいた。
絶対に来ているだろうと思っていた。
雛妃だ。
ホールの最前列とは逆側の壁際にもたれる様にして立っていた。
両隣には、取り巻きらしきあの二人−あの掲示板によれば痩せぎすの方をアユミ、小太りの方をリナと言うらしい。これまた雛妃同様、本名かどうかはわからないが−も従えて。
雛妃は、腕組みをして不敵な笑みを微かに浮かべて、あたしを見ていた。