あれから一週間が経とうとしていた。
魔法が溶けてしまえば、シンデレラの馬車はカボチャに、馬はネズミに、ドレスは元の粗末な服に戻ってしまう。
すっかり、元通り。
…のハズだった。
驚いた事に、あの日からあたしは毎日明とメールをしていた。
あの夜、バス停で明と別れ帰路に着いたあたし。
帰宅した途端、極度の緊張からやっと解放され、心身ともに疲れがどっと出た。
居間でテレビのニュースをつまらなそうに観ていたママが、首だけあたしの方を向き、「おかえり。どこに行ってたの?」と無表情で尋ねた。
「友達とご飯食べに行ってた」とあたしもそれに倣って答える。
ママは「そう」と答えるとまたテレビ画面に向き直った。そして「お風呂、炊いたから入るなら入っちゃって」と言った。
確かに風呂に入って、身体の疲れを取りたかった。
ゆっくり、リラックスしたかった。
そして髪を乾かし、歯も磨いて今日のところはさっさと寝てしまいたい。
けれど、まずは二階の自分の部屋に行く。
バッグを置き、着替えを持ってすぐさま風呂に向かいたいところだが、身体がもう動きたくない、と言っている。
部屋着に着替える事もせずに、ベッドに大の字に横たわる。
「あーあ、疲れた」と誰ともなしに呟くと、何の気なしにバッグから携帯を取り出す。
明からメールが着ていた。
あたしは驚いて、がばっと起き上がった。
そう言えば数時間前もこんな事をしたな、と少し思った。
メールには
「今バイト中だけど、こっそりトイレからこれ書いてる(笑)
杏子ちゃん、今日はありがとう。楽しかったよ。また、会いたいな」
と書かれていた。
「明…」
また誰ともなしに呟いた。
気付くとあたしは、開いたままの携帯を両手で持ち胸に添えていた。
楽しかったよ、また会いたい−…もちろん、誰にでも言っている社交辞令のセリフだろう。
フェニックスのメンバーのうち、海と明の女癖の悪さはファンの間でも有名だった。
二人にとって浮気やナンパは息をするように当たり前、二股やそれ以上もお手のもの。ファンにももちろん手を出す。彼女がいながら体だけの関係の女性もいるとかいないとか。
そう言えば海なんか、それで何回か女に刺されそうになった−と例の掲示板サイトに書かれていた。
「でも明は、今は彼女はいないって言ってた…」
もしかしてそれも社交辞令?
明にとっては、あたしも簡単につまみ食い出来るファンの一人に過ぎないのだろうか。
いくらあたしが明のファンとは言え−…さすがにこのまま遊ばれるのは嫌だ。
あたしにだって、プライドはある。
このまま、王子様との舞踏会の想い出は、胸に秘めるだけにしよう。
また元の灰かぶりに戻るんだ−。
そう頭では考えていても、心は全く逆の事を思っているものだ。
ファミレスで見せてくれた、あの優しい眼差し。本当に楽しそうな笑顔。少年の様に無邪気な表情。紳士な対応。
その全てが偽りのない明で、あたしだけに見せてくれたものだと信じたかった。
あんなの、他の女の子達にもしているお決まりの演技に決まってる、騙されちゃ駄目と頭では警報が鳴っている。
だけれど、もう止まらない。
あたしはすぐにメールの返信をした。
がっついた感じになるのも嫌なので、「こちらこそ今日はどうもありがとう。ごちそうさまでした。明とお話が出来て、とても楽しかったです。バイト頑張って下さいね」と敢えて無難な文面を書いて送った。
返事が来たのは、次の日の
朝8時過ぎだった。
通勤中にも関わらず、またメールが来てあたしは嬉しさに跳び跳ねた。
こうしてあたしは携帯を手放さない生活を送っている。
魔法が溶けてしまえば、シンデレラの馬車はカボチャに、馬はネズミに、ドレスは元の粗末な服に戻ってしまう。
すっかり、元通り。
…のハズだった。
驚いた事に、あの日からあたしは毎日明とメールをしていた。
あの夜、バス停で明と別れ帰路に着いたあたし。
帰宅した途端、極度の緊張からやっと解放され、心身ともに疲れがどっと出た。
居間でテレビのニュースをつまらなそうに観ていたママが、首だけあたしの方を向き、「おかえり。どこに行ってたの?」と無表情で尋ねた。
「友達とご飯食べに行ってた」とあたしもそれに倣って答える。
ママは「そう」と答えるとまたテレビ画面に向き直った。そして「お風呂、炊いたから入るなら入っちゃって」と言った。
確かに風呂に入って、身体の疲れを取りたかった。
ゆっくり、リラックスしたかった。
そして髪を乾かし、歯も磨いて今日のところはさっさと寝てしまいたい。
けれど、まずは二階の自分の部屋に行く。
バッグを置き、着替えを持ってすぐさま風呂に向かいたいところだが、身体がもう動きたくない、と言っている。
部屋着に着替える事もせずに、ベッドに大の字に横たわる。
「あーあ、疲れた」と誰ともなしに呟くと、何の気なしにバッグから携帯を取り出す。
明からメールが着ていた。
あたしは驚いて、がばっと起き上がった。
そう言えば数時間前もこんな事をしたな、と少し思った。
メールには
「今バイト中だけど、こっそりトイレからこれ書いてる(笑)
杏子ちゃん、今日はありがとう。楽しかったよ。また、会いたいな」
と書かれていた。
「明…」
また誰ともなしに呟いた。
気付くとあたしは、開いたままの携帯を両手で持ち胸に添えていた。
楽しかったよ、また会いたい−…もちろん、誰にでも言っている社交辞令のセリフだろう。
フェニックスのメンバーのうち、海と明の女癖の悪さはファンの間でも有名だった。
二人にとって浮気やナンパは息をするように当たり前、二股やそれ以上もお手のもの。ファンにももちろん手を出す。彼女がいながら体だけの関係の女性もいるとかいないとか。
そう言えば海なんか、それで何回か女に刺されそうになった−と例の掲示板サイトに書かれていた。
「でも明は、今は彼女はいないって言ってた…」
もしかしてそれも社交辞令?
明にとっては、あたしも簡単につまみ食い出来るファンの一人に過ぎないのだろうか。
いくらあたしが明のファンとは言え−…さすがにこのまま遊ばれるのは嫌だ。
あたしにだって、プライドはある。
このまま、王子様との舞踏会の想い出は、胸に秘めるだけにしよう。
また元の灰かぶりに戻るんだ−。
そう頭では考えていても、心は全く逆の事を思っているものだ。
ファミレスで見せてくれた、あの優しい眼差し。本当に楽しそうな笑顔。少年の様に無邪気な表情。紳士な対応。
その全てが偽りのない明で、あたしだけに見せてくれたものだと信じたかった。
あんなの、他の女の子達にもしているお決まりの演技に決まってる、騙されちゃ駄目と頭では警報が鳴っている。
だけれど、もう止まらない。
あたしはすぐにメールの返信をした。
がっついた感じになるのも嫌なので、「こちらこそ今日はどうもありがとう。ごちそうさまでした。明とお話が出来て、とても楽しかったです。バイト頑張って下さいね」と敢えて無難な文面を書いて送った。
返事が来たのは、次の日の
朝8時過ぎだった。
通勤中にも関わらず、またメールが来てあたしは嬉しさに跳び跳ねた。
こうしてあたしは携帯を手放さない生活を送っている。